最新記事

日本社会

「奨学金」という名の借金が地方の若者を苦しめる

2022年9月22日(木)10時30分
舞田敏彦(教育社会学者)
奨学金免除

アメリカでは学生ローンの一部を免除する政策が打ち出された DNY59/iStock.

<大学生の奨学金利用率にはかなりの地域差があり、地方では多くの若者が借金を背負って社会人生活をスタートさせている>

アメリカでは奨学金返済に苦しんでいる人を救うべく、1人あたり1万ドルの借入額をチャラにするという。日本円にして120万円ほど。これをやってくれたらどんなに有難いかと思う人は、日本でも多いはずだ。

昔に比べて大学進学率が上昇し、高等教育の機会が幅広い階層に開かれてきているが、奨学金という名の借金を負わせることで、それが進められてきたのも事実だ。

筆者が学生の頃(1990年代後半)は、大学生の奨学金利用率は1割ほどで、ほとんどが無利子だったが、今では利用者数が膨れ上がり、無利子より有利子の枠が多い。返済義務のない給付型も創設されたが、利用者数では貸与型が大半を占める。

日本学生支援機構の公表統計によると、2020年度の大学学部学生の奨学金利用者数(給付人員)は無利子貸与が34万6508人、有利子貸与が54万255人、合算すると88万6763人となる。両方を利用する学生もいるので「延べ数」になるが、そういう学生は少数なので、貸与奨学金を使っている学生の頭数の近似数とみていい。

同年5月時点の大学学部学生(262万3572人)に占める割合は33.8%。最近では、大学生の3人に1人が貸与奨学金を使っていることになる。奨学金と呼べる代物ではない、まぎれもなくローンだ。

また地域差もある。47都道府県別に、上記の2つの奨学金利用学生数が全学生に占める割合を計算することもできる。<表1>は、数値が高い順に並べたものだ。

data220922-chart01.jpg

当該県の大学生のうち、貸与奨学金を使っている学生が何%いるかだが、都道府県別に見るとかなりの差があることが分かる。最高は青森県の50.9%、最低は滋賀県の13.7%だ。奨学金の利用率が40%を超える県が20あり、筆者の郷里の鹿児島県は41.6%で、青森県と宮崎県は半分を超える。所得水準が低いので、奨学金を利用しないと進学が難しいためだと考えられる。

<表1>のランキングを見ると、各県の所得水準と相関しているように見える。2017年の総務省『就業構造基本調査』から、45~54歳男性有業者(大学生の父親年代)の所得中央値を計算すると、東京都は633万円で沖縄県は332万。倍近くの開きがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中