最新記事

北朝鮮

金正恩は究極の「無ワクチン」実験をやる気なのか

North Korea's Kim Jong Un Begins Ultimate No-Vaccination Experiment

2022年5月19日(木)16時29分
ジョン・フェン

マスクをして新型コロナウイルス感染対策を語る金正恩(国営通信社が5月14日に配布、撮影日は不明) KCNA/REUTERS

<このままワクチンを拒否し続ければ過去2年の無策の責任は問われずにすむかもしれないが、人口密集地での感染爆発が新たな変異株を生み、それが国境を越える危険もある>

北朝鮮の2500万人の国民は今、ワクチン未接種の状態で新型コロナの感染拡大に直面している。金正恩朝鮮労働党総書記が、世界各地で新型コロナウイルスの流行が始まってからの2年以上、自国民にワクチン接種を受けさせてこなかったからだ。

検査体制も十分に整っていない北朝鮮では、「発熱症状」が新型コロナの感染疑いと見なされており、北朝鮮政府は今週に入って、4月下旬以降の「発熱者」が170万人以上にのぼったことを認めた。WHO(世界保健機関)は、北朝鮮国内で「歯止めのきかない感染拡大」が起きれば新たな変異株の出現につながる可能性があると警告。それが人口の密集している近隣諸国、とりわけ中国に広まる危険があると懸念を表明した。

北朝鮮は、2020年1月という早い段階で、当時中国で流行が始まっていた新型コロナウイルスを警戒し、中朝国境を封鎖した。それ以降、新型コロナの感染者は出ていないと(疑わしい)主張を続けてきたが、5月12日に、国内で初めてオミクロン株の亜種「BA.2」のクラスターが発生したことを認めた。4月下旬に行われた過去最大規模の軍事パレードが、感染拡大の引き金になったとみられている。

抗生物質と民間療法が頼り

国営メディアの朝鮮中央通信(KCNA)は、この感染拡大について、金正恩が「建国以来の大動乱」と危機感をあらわにしていると伝えた。しかし効果的なワクチンがないなか、KCNAによれば5月17日までに62人が死亡しており、治療には抗生物質と民間療法に頼るしかない。

上海をはじめとする中国の主要都市の例は、感染力の強いオミクロン株の感染拡大は、長期的なロックダウンや感染者の集団隔離だけで封じ込めることが不可能であることを示している。しかし北朝鮮ではそれが、ワクチン未接種の国民に襲い掛かっている。

WHOの感染症専門家であるマリア・ファンケルクホーフェは、17日にジュネーブで行った記者会見の中で、各国政府は利用可能なあらゆるツールを活用して、新型コロナの抑制に「包括的なアプローチ」を行う必要があると述べた。

彼女はオミクロン株は「感染力は強いが毒性は弱い」という「命取りになりかねない」認識を一蹴し、基礎疾患があれば重症化するリスクもあると警告。効果的なワクチンの接種を済ませた人だけが、最も重篤な症状になるリスクを軽減できていると述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ミネソタで州議員が銃撃受け死亡、容疑者逃走中 知

ワールド

米首都で34年ぶり軍事パレード、トランプ氏誕生日 

ワールド

再送-米ロ首脳、イスラエル・イラン情勢で電話会談 

ワールド

イスラエル、イランガス田にも攻撃 応酬続く 米・イ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中