最新記事

新型コロナウイルス

金正恩を襲う「新型コロナ疑い」100万人超と飢饉のジレンマ

North Korea May Be Trapped Between Famine and Plague

2022年5月17日(火)19時09分
アンキット・パンダ(全米科学者連盟フェロー)

マスクをして平壌の薬局を視察する金正恩(5月15日) KCNA/REUTERS

<感染疑いの「発熱者」は100万人。しかし「田植え」を休めば飢饉の恐れ>

北朝鮮は2020年1月、当時中国で流行が始まっていた新型コロナウイルスを警戒して国境を封鎖した。与党・朝鮮労働党の機関紙である労働新聞は、ウイルスの流入を防ぐことは「国家の存亡にかかわる」問題だと危機感をあらわにした。

その後、新型コロナウイルスは世界中を駆け巡ったものの、北朝鮮は「感染者ゼロ」と主張してきた。中国共産党の例にならい、朝鮮労働党も国境を封鎖することで「ゼロコロナ政策」を追求する道を選んだ。中国と異なるのは、越境禁止を破った者は「銃撃」するなど、より強硬なことだ。

その北朝鮮が5月12日、国内で新型コロナの感染者が確認されたと公表した。感染者からはオミクロン株の亜種「BA.2」が検出されたという。北朝鮮では新型コロナウイルスワクチンを接種したことが分かっている市民は一人もいない。市民が各変異株に対する自然免疫を獲得している可能性もきわめて低い。

ウイルスと食糧不足

国営メディアは初の感染者確認からわずか数日で、累計100万人以上の「発熱者」が出ていることを認めた。北朝鮮では新型コロナの検査体制が不十分なため、「発熱」イコール「感染疑い」とされている。感染拡大の中心地である首都の平壌では、4月25日に過去最大規模の軍事パレードが開催されていた。感染を認めた5月12日には、最高指導者である金正恩総書記がマスクをつけている映像が、初めて国営メディアで放送された。

4月に朝鮮労働党のトップ就任から10年を祝ったばかりの金正恩にとって、国内でオミクロン株とその亜種の感染が確認されたことは、深刻な脅威だ。それでも新型コロナウイルスは、北朝鮮が現在直面している数々の難題の一つにすぎない。

北朝鮮は再び、飢饉の瀬戸際に立たされている可能性がある。金正恩は2022年1月1日の演説の中で、核兵器やミサイルではなく、農業生産高の重要性を強調した。北朝鮮にとって食糧不足はこれが初めてではない。だが広範な食糧不足と深刻な呼吸器疾患を引き起こすウイルスの組み合わせは恐るべき問題であり、ウイルス拡散をいかに抑止するかが、金正恩体制にとって大きな課題となりそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 7
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中