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新型コロナウイルス

「新型ウイルスがわが国に入ってきたら終わり」北朝鮮国民が戦々恐々

2020年1月30日(木)15時45分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

北朝鮮の医療の崩壊ぶりはつとに知られている(写真は15年10月に製薬工場を視察する金正恩) KCNA-REUTERS

<現地の人々は「中国でも治療できないのなら、北朝鮮では完全に不治の病だ」と嘆いている>

北朝鮮は、中国・湖北省武漢市を中心に各国で感染が急拡大している新型コロナウイルスによる肺炎の侵入を防ぐため、22日から外国人観光客の受け入れを停止したのに続き、中国経由で北朝鮮を訪問する在日朝鮮人の受け入れも停止したもようだ。

また、北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は26日に「新型コロナウイルス感染症を徹底して防ごう」という保健省国家衛生検閲院のパク・ミョンス院長の記事を掲載し、ウイルスによる肺炎の症状、感染経路を説明した上で、予防法を説いた。

労働新聞は22日からこの感染症に関する報道を行っているが、その前から北朝鮮国内に噂で伝わり、不安心理が広がっていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、現地で「治療が不可能な新種の肺炎で死者が続出しているとの噂が広まりつつある」と伝えた。

情報のソースは、北朝鮮と中国を行き来したり、頻繁に連絡を取っている貿易関係者や密輸業者だ。また、国境に近い地域の中には、朝鮮語で放送している中国吉林省延辺朝鮮族自治州のテレビが受信できるところもあり、リアルタイムで情報を得ている人も少なくないと思われる。さらにラジオならば、韓国の放送も受信可能だ。

しかし、情報筋が現地の様子を伝えた今月22日の時点では、正しい情報が広まっているとは言い難い状況だったようで、情報筋も「過去の急性肺炎と同じような症状で、感染力が高いのが特徴」程度のことしか把握していなかったようだ。

情報筋は、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)や2015年のMERS(中東呼吸器症候群)流行の際に、国内で国内で感染が拡大し、生活に大きな影響が出たとしている。双方とも公式には北朝鮮での感染者は確認されていないが、防疫を担当する部署は「水は沸かして飲め、手を洗え、(他地域への)住民の移動を禁止する」(情報筋)程度の対策しか取らなかったと指摘した。

一般住民は、市場で抗生剤と解熱剤を市場で購入して、感染に備えているとのことだ。

咸鏡北道の西隣の両江道(リャンガンド)の情報筋は、「新型肺炎で死者が続出し、感染が急速に拡大している」との噂が広まる中でも、多くの人が中国に出国しており、それを見た市民を不安がらせていると伝えた。

北朝鮮の医療の崩壊ぶりは、つとに知られている。

現地の人々は「中国でも治療できないのなら、わが国(北朝鮮)では完全に不治の病だ」として「国内に入ってきたら終わり」との反応を示し、SARSやMERSを想起して「打つ手のないままにやられた」と嘆いているとのことだ。

<参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫...亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

<参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術...北朝鮮の医療施設

当時、中国に行ってきた人は数カ月間隔離されたが、情報筋の親戚もその一人だ。しかし、肺炎以外の治療は全くなされず、別の持病を抱えていたその親戚は、隔離中に亡くなったと述べた。

[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。

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