最新記事

ウクライナ危機

プーチンがウクライナに軍派遣命令 演説で歪んだ歴史認識と怨みを吐露

Putin Orders Russian Troops Into Ukraine’s Breakaway Provinces

2022年2月22日(火)18時17分
ロビー・グラマー/ジャック・デッチ/エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)

欧州連合(EU)はプーチンの演説を受けてすぐに、「この違法行為に関与した者たち」に制裁を科すと表明。イギリスのボリス・ジョンソン首相は演説を、危機の悪化を示す「きわめて不吉で暗い兆候だ」と述べた。バイデンは、問題の2つの地域について、アメリカ人による新たな投資や資金提供を禁じる大統領令に署名。複数の米当局者は、22日にもさらなる制裁の発表があるだろうと示唆した。

だが米政府の高官は、プーチンによるドンバスへの派兵が、すぐにアメリカとヨーロッパによる追加制裁の発動につながることはないとの見方を示した。

追加制裁となれば、ヨーロッパ諸国はロシアの銀行やエネルギー部門を標的にする見通しだが、ドンバス地方では8年前から紛争が続いており、「その間ずっとロシア軍の部隊が現地に駐留してきた」と、この高官は言う。「彼らが今後どうするのか、慎重に見ていくつもりだ」と続けた。ロシアがこれら2つの地域を越えた先まで軍を進めて初めて、バイデン政権が示唆した大規模な制裁が発動されるだろうとこの人物は指摘した。

緊張の高まりを示すもう一つの兆候として、アメリカはロシアの反体制派や活動家、さらにロシアが殺害や収容の標的とするウクライナ国内の反体制派に対して、警告を発している、とこの高官は述べた。フォーリン・ポリシー誌は18日に、ロシアがウクライナのさらに奥まで入った場合の標的リストに関する情報を、アメリカが入手したと報じた。

長年の不満をぶちまけたプーチン

プーチンは演説の中で、ウクライナに対する攻撃的な姿勢を撤回する考えはないことを示し、冷戦の幕開けや何世紀も前のロシア帝国の歴史にまで遡る、西側諸国に対する長年の不満を改めて強調した。

「ウクライナは我々が(旧ソ連時代に)彼らに与えた全てのものを無駄にしただけではなく、彼らがロシア帝国から受け継いだ遺産、なかでもウクライナを併合したエカテリーナ2がもたらしたものまで台無しにした」とプーチンは述べた。

脅しを織り交ぜた長い演説の中で、プーチンはウクライナがロシアとの歴史的なつながりを無駄にしたと厳しく非難。ウクライナがロシアに対する軍事攻撃を計画し、また核兵器を入手しようとしていると、言いがかりをつけた(ウクライナは、ソ連の崩壊と冷戦の終結を受けて核兵器を手放した数少ない国の一つ)。プーチンはまた、ウクライナが2014年で当時の親ロシア派政権に対する大規模な抗議活動が起きたとき、ロシア系住民を殺害したイスラム主義のテロ組織を支援したと主張したが、その証拠は提示しなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCでの利下げ見送り観測高まる、モルガン

ワールド

トランプ氏、チェイニー元副大統領の追悼式に招待され

ビジネス

クックFRB理事、資産価格急落リスクを指摘 連鎖悪

ビジネス

米クリーブランド連銀総裁、インフレ高止まりに注視 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中