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ウクライナ危機

策士プーチンがウクライナ危機で狙っていること

The West Fell Into Putin's Trap

2022年1月31日(月)17時45分
カロリーヌ・デ・フラウター(フォーリン・ポリシー誌コラムニスト)

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昨年10月にEU首脳と会談したウクライナのゼレンスキー大統領(中央) UKRAINIAN PRESIDENTIAL PRESS SERVICE-REUTERS

こうした展開を見れば、今もアメリカが欧州安保の主役であることは明らかだ。

プーチンにとって、それは実に好都合。人や国の立ち位置は、誰の敵であるかで決まる。誰の友人であるかは二の次だ。

懐かしい東西冷戦の時代のように、アメリカの宿敵として堂々と、一対一で渡り合うこと。それこそがプーチンの願いだ。

アメリカとの直接対話なら、そこにEUの出る幕はない(ちなみにプーチンはさまざまな理由でEUを忌み嫌っていて、その権威失墜を常に画策している)。

ただしアメリカは、ロシアとの外交を主導する一方、行動面ではNATOの同盟国やEUと緊密に連携すると繰り返し語っている。欧州諸国はこれに感謝すべきだ。

ロシアはまた、欧州安保に関する持論を蒸し返すことにも成功した。ソ連崩壊以来、西側はロシアに対する攻勢を強めており、ロシアはひたすら防戦を強いられているという歴史解釈だ。

この解釈の延長線上に、旧ソ連圏の諸国をNATOに加盟させるなという要求が出てくる。

もちろんロシア側は、そんな提案が通るはずはないことを承知している。しかしこの主張を続けていれば、ロシア国民の歴史的被害妄想をあおり、超大国アメリカを敵に回すプーチンの権威を高めることができる。

ここまでの成果を、ロシアは国内で軍隊を少し動かすだけで達成した。今後の数日ないし数週間で事態がどう動こうと、プーチンは既に、欧米諸国の過剰反応のおかげで大きな利益を得た。

こんなことを許していいのか。こんな展開を防ぐ方法はないのか。

もちろん、ある。

外交は静かに水面下で

まずは、むやみに騒がないこと。

新たな制裁に関する欧州とアメリカの協議が難航することも、それによって制裁の効果が低下することも、みんな分かっていたはずだ。そもそも「制裁」という言葉自体、軍事侵攻という重大事への対応にしては弱く見える。

本来なら、制裁の協議を公にすべきでなかった。身内の温度差をさらけ出すのは無益だ。むしろ水面下で協議し、プーチンには内緒にしておくべきだった。

とにかく手の内を見せない。それが争い事の鉄則だ。ロシア側へのメッセージは、外交ルートを通じて内々に送ればいい。そうすれば、あちらはそれを政治的に利用できない。

2つ目。欧米諸国は制裁の話ではなく、国際政治のルール(領土の不可侵、主権国家の自決権など)について語るべきだ。

制裁を語るだけでは、要するにこれは宿敵同士の悪しき報復合戦だという印象を与えてしまう。それこそプーチンの思う壺だ。

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