最新記事

日本社会

社会人の学び直しの機会が閉ざされた、日本の「リカレント教育」の貧相な実態

2022年1月26日(水)14時15分
舞田敏彦(教育社会学者)
スキル教育

汎用性のあるスキルを武器に労働者が職場を渡り歩く時代もやがて訪れる takasuu/iStock.

<学校で学び直したい希望がある30代以上の男女は合計500万人以上いると見られるが、現実にそれを叶えているのは数%しかいない>

日本の子どもの勉強時間は、世界でもトップクラスだろう。1日の学業時間(学校の授業、宿題、塾等での勉強)は10代前半が340分、10代後半が327分だ(総務省『社会生活基本調査』2016年)。自発的な学習・自己啓発は順に45分、46分。ところが筆者の年齢の40代後半だと順に3分、6分というありさまだ。

学校に通っている大人は極めて少数なので、当然と言えばそうだ。だが他国ではそうではない。OECD(経済開発協力機構)の国際学力調査「PIACC 2012」のデータを使って、通学人口率の年齢曲線を描くことができる。何らかの学校に通っている者の割合を年齢層別に出し、それらを線でつないだものだ。日本とフィンランドのカーブを描くと<図1>のようになる。

data220126-chart01.png

日本は10代後半では高いが20代前半では3割を切り、20代後半以降は地を這うような推移になる。だがフィンランドは低下の傾向が緩やかで、30代でも2割が学生だ。教育期と仕事期の間を往来する「リカレント教育」のシステムができているためだろう。企業は教育有給休暇を設け、大学等は一定期間の職業経験を入学資格とするなど、社会人が入りやすい条件を整えている。

しかし日本はそうでなく、社会に出た成人が学校に戻って学び直すのはなかなか難しい。職業訓練が企業内で閉じていて、従業員に外部の機関で教育を受けさせようとしない。教育有給休暇などはもっての他で、仕事を終えて夜間の学校に行くと言っても、雇い主は嫌な顔をする。

だが、日本の大人も学校で学びたいという欲求は持っている。内閣府が2015年12月に実施した『教育・生涯学習に関する世論調査』によると、30代男性の6.7%が「学校の正規課程で学びたい」と答えている。40代は13.6%、50代は9.1%、60代は3.4%、70歳以上は2.1%だ。40代男性では6人に1人。働き盛りの年齢層だが、今の会社以外でも通用する汎用性ある知識やスキルへの希求かもしれない。職務から離れた学びへの欲求もあるだろう。

30代男性人口は約789万人なので(総務省『国勢調査』2015年)、上記の比率をかけると30代男性の通学希望者数は53万人ほどと見積もられる。このやり方で他の年齢層の通学希望者数を出し合算すると300万人。30歳以上の男性の通学希望者数だ。同年齢の女性の通学希望者は236万人。男女合わせて536万人にもなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中