最新記事

宇宙

大国同士の軍拡競争と「膨大なごみ」が、宇宙をここまで汚染している

SPACE IS BECOMING A MESS

2022年1月7日(金)17時47分
セス・スティーブンソン
宇宙ごみ

ロマンの現実 数千の人工衛星やデブリ で混雑する宇宙で衝突リ スクが高まっている

<危険な衛星「破壊」実験でデブリ問題が深刻化。軍事利用が懸念されるなか、宇宙環境を破壊する前にルール作りが必要だ>

危機一髪だった。2021年11月15日、国際宇宙ステーション(ISS)が宇宙ゴミ(スペース・デブリ)の衝突の危険にさらされる「接近事例」が発生したのだ。

問題のデブリは追跡によって、ロシアの使用済み人工衛星のものと判明。ロシアは対衛星ミサイルの実験目的で、この衛星を破壊していた。

思い出すのは、13年のSF映画『ゼロ・グラビティ』だ。同作では、デブリの衝突でスペースシャトルが大破し、宇宙空間に放り出された主人公が命懸けで地球への帰還を目指す。今回、ISSに滞在する宇宙飛行士らは無事だったが、この一件は現行の宇宙政策の欠陥や(文字どおり)「汚い世界」になりつつある宇宙の現状を浮き彫りにした。

戦場にしてごみ捨て場に変貌する宇宙が、人間にとって安全な空間であり続けるために何が必要なのか。物理学者で宇宙空間のミサイル防衛について研究してきたマサチューセッツ工科大学(MIT)フェローのローラ・グレゴに、ジャーナリストのセス・スティーブンソンが話を聞いた(以下は、オンライン誌スレートのポッドキャスト番組向けインタビューを編集したもの)。

――ロシアが自国衛星を破壊するのは、アメリカなどに対する警告なのか。いつでも衛星を撃ち落として、通信を遮断できると言いたいのか。

そのとおり。宇宙は軍隊、とりわけ米軍にとって重要だ。兵士や機器を世界各地に展開する米軍は、現場とコミュニケーションを取る必要がある。米軍が機能しているのは、通信体制があるからだ。宇宙兵器や衛星攻撃兵器のほとんどは、地上での戦いを支える衛星を標的にする。航法衛星や通信衛星、偵察衛星だ。

ロシアは確実に(衛星を攻撃する)技術を有している。だが、それを具体的な形で示すのは別の話だ。「おまえたちの衛星を狙うことができる。衛星にとって安全な場所はない」と、ロシアは告げている。

――どうやって衛星を撃ち落とすのか。それは難しいのか。

かなり難しい。それが(ロシアの実験の)動機の1つだったのかもしれない。困難な技術を使いこなす力を誇示できるからだ。

(衛星を攻撃するには)小型兵器であるキル・ビークル(撃破飛翔体)を地上からミサイルで打ち上げる。飛翔体は標的の衛星の予測位置に向かって放たれ、飛翔体が放出する物質が高速で衛星と衝突する。ジェット機の30倍のスピードである秒速7キロで動く衛星と、高速で衝突させるには大変な技術的ノウハウが必要だ。銃弾を銃弾で撃つようなものだと言われている。

(ロシアの実験は)より大きな技術戦争の兆候の1つだ。強力な攻撃兵器を保有するだけでなく、他国の防衛手段を攻撃できると見せつけるため、あらゆる技術を取り込もうとしている。

――地球上には軍備管理条約が存在するが、軍拡競争に歯止めをかけることはできていないようだ。宇宙に関しては、1967年に国連の宇宙条約が発効した。同条約は宇宙を全人類のものと定め、地球周回軌道や月への核兵器設置を禁じている。

私は以前、宇宙は開拓時代の米西部のような無法地帯だと繰り返し発言していたが、それは正しくない。法律は存在する。ありがたいことに、法が適用される事例はまだ起きていないし、宇宙戦争も勃発していない。だが、今後の大国間の対立は宇宙にも波及すると思う。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済活動、7地区で緩やかな拡大 見通しは全体に楽

ワールド

イラン、CIAに停戦協議打診か イスラエルは米に説

ワールド

ハメネイ師息子モジタバ師、後継有力候補との情報 米

ビジネス

プーチン氏、欧州向けガス供給の即時停止の可能性を示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られる」衝撃映像にネット騒然
  • 3
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    「外国人が増え、犯罪は減った」という現実もあるの…
  • 6
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 7
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場…
  • 8
    戦術は進化しても戦局が動かない地獄──ロシア・ウク…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 1
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからくりとリスク
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 6
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 9
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 10
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中