最新記事

宇宙

大国同士の軍拡競争と「膨大なごみ」が、宇宙をここまで汚染している

SPACE IS BECOMING A MESS

2022年1月7日(金)17時47分
セス・スティーブンソン

――宇宙での交戦規則の在り方は、長らく対立の芽になってきた。例えば、冷戦時代に当時のロナルド・レーガン米大統領は戦略防衛構想(SDI)を掲げ、核攻撃を阻止できる防御兵器を宇宙に置こうとした。

「スターウォーズ計画」とも呼ばれたSDIの時代、この手の議論が頂点に達した。宇宙配備型のミサイル迎撃兵器やミサイル防衛システムでソ連の攻撃を阻止するという構想で、核兵器は時代遅れになるとされた。

――国連では、新たな宇宙ルールの策定が話し合われている。宇宙開発に積極的な中国やロシアは新条約によって、宇宙への兵器配備制限を強化することに賛成だ。だが、新たな規制の範囲をめぐってアメリカと対立しているようだが。

あらゆる場で耳にすることだが、ロシアや中国は今も、アメリカが宇宙配備型ミサイル防衛を推進するのではないかと非常に懸念している。宇宙配備型のミサイル迎撃兵器を違法化する新条約の中心に、そうした懸念があるのは確かだ。

――能力を示すために自国衛星を破壊する軍事的行動には、環境などに悪影響を与える「外部不経済」が伴う。衛星破壊によるデブリだ。どれくらい深刻か?

デブリは極めて大きな問題だ。大型衛星1基を破壊すれば、今のデブリの数が倍増しかねない。ある種の軌道内で破壊したら、永久的に宇宙空間に残る可能性がある。

宇宙を健全で予測可能な状態に保つには、誰もが足並みをそろえなくてはならない。衛星破壊実験は政治的な示威行動にはなるだろうが、宇宙利用を危険にさらす。

興味深いのは、この問題が(衛星インターネットアクセスサービス提供を目指すスペースX社の)スターリンク衛星打ち上げなど、商業宇宙活動の大幅拡大と同時に起きていることだ。衛星が爆破されている空間で、数万基の(商業)衛星が協調動作を維持できるとは期待できないし、そんな状況では巨額を投資する気になれない。

――目的は良くても、宇宙に打ち上げるものが増えれば、衝突のリスクも増す。衛星2基の衝突事故で大量のデブリが発生したこともあった。

過去数十年間、人工衛星数は比較的緩やかに増加していたが、今では1年当たりの打ち上げ数は数百基に上り、既に数千基が上空にある。全ての動きを追うのは大変で、人類にはその経験がない。各衛星の位置や航路、衝突の恐れを把握する「宇宙交通管理」のインフラも存在しない。

――宇宙が大洋だとすれば、人類は自らの沿岸を汚染しつつある。海洋プラごみや気候変動のように、私たちは将来的な大問題をつくり出しながら、手をこまねいているのか。

これは大きな動きの一部であり、誰か一人の責任ではない。規制や監視の用意がないまま活動だけが爆発的に増加し、安全を確保するツールがそろっていない。技術の発展に追い付く必要がある。

宇宙の軍事利用に関する法律や戦略、環境面での規制も整っていない。「宇宙の持続可能性」を保ち、何世代にもわたる利用を可能にするため、汚染しないためにどうすべきか。課題はとても多い。

©2021 The Slate Group

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、レアアース輸出ライセンス合理化に取り組んでい

ワールド

ADBと世銀、新協調融資モデルで太平洋諸島プロジェ

ワールド

アングル:好調スタートの米年末商戦、水面下で消費揺

ワールド

トルコ、ロ・ウにエネインフラの安全確保要請 黒海で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中