最新記事

メンタルヘルス

フランスでも「ヒキコモリ」問題が拡大中、ただし日本とは大きな違いが

2021年12月17日(金)15時42分
西村カリン(ジャーナリスト)
古橋忠晃准教授

今年9月、フランス語圏精神神経学会にて(左は学会運営理事のパトリック・マルタン教授) COURTESY TADAAKI FURUHASHI

<「ひきこもり」という言葉をフランスに輸出し、現地でも研究と支援活動に従事する精神科医・古橋忠晃が経験したこと>

外国でも「寿司」「弁当」「漫画」「オタク」「改善」といった単語は、日本語のまま使われている。「ひきこもり(HIKIKOMORI)」もその1つで、近年、新聞記事や医学関連の講演会で見たり聞いたりする機会が増えた。

「ひきこもり」の語をフランスに輸出し、現地のひきこもり現象を研究するのが、名古屋大学総合保健体育科学センターの精神科医である古橋忠晃准教授(48)だ。

1980年頃まで、日本の精神医学はドイツやフランスの影響を強く受けていた(今はどちらかと言えばアメリカだ)。古橋もフランスの精神医学を学び、学生時代にはパリのソルボンヌ大学でフランス語を勉強した。「フランスの哲学や小説が好きだったし、精神科医になってからもずっとフランスの精神医学を勉強し、現地に行くことも多かった」と、古橋は言う。

「2008年だったと思うがパリに行き、そこで学生相談をやっている人たちと話す機会があった。そのとき『名前は付いていないが、家にこもってゲームばかりしている若者たちがいる。一体何だろう』という話になった」

各国でひきこもりについて講演

当時、古橋は名古屋大学で学生診療を始めて3年たった頃で、ひきこもりの学生を何人も見ていた。フランスの例も「ひきこもり」ではないかと発言したところ、「『そんなものは聞いたことがない。共同研究をしよう』ということになった」と古橋は言う。

以来、パリと日本を行き来して研究を進める一方、17年からはフランスでひきこもりと思われる130人ほどの人々と面談し、少なくとも80人以上の医師にアドバイスを実施。自身の監修で、東部ストラスブールに相談窓口を立ち上げ、フランスやイギリス、スウェーデン、オランダ、モロッコなどでひきこもりについての講演会も開催してきた。

フランス語で、自分の家から出ない人を説明する単語はいくつかある。ではなぜ「ひきこもり」がぴったりなのか。「閉じこもるという意味のフランス語はいろいろあるが、空間的なイメージが強い。ただ、ひきこもりは空間的な現象ではないと私は思う。彼らは『社会との関係を結べない人たち』であり、そのニュアンスは既存のフランス語になかったのだろう」と、古橋は説明する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

伊ベネチア、観光客から入市料徴収 オーバーツーリズ

ビジネス

日産、中国向けコンセプトカー4車種公開 巻き返しへ

ワールド

訪中のブリンケン米国務長官、上海市トップと会談

ビジネス

独VW、中国市場シェアは2030年まで昨年並み維持
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中