最新記事

ドイツ

改革は遅く官僚主義的、それでもドイツの民主主義に学ぶべきこと

German Lessons

2021年10月27日(水)20時37分
スティーブン・サボー(ジョージタウン大学非常勤教授)

211102P33_DIT_02.jpg

ヒトラー率いるナチスドイツ(1938年)終焉後の旧西ドイツに民主主義をもたらしたのはアメリカだったが CENTRAL PRESS-HULTON ARCHIVE/GETTY IMAGES

また、ドイツでは連立政権に参加しない野党も、政策立案に影響を及ぼすことができる。連邦議会では、各種委員会の委員長の座が各政党に割り当てられ、多数派に独占されることがないためだ。連邦参議院が国内16州の政府が送り出す代表から成ることも、政党間の妥協を促す要因となっている。

■政党の大きな役割

ドイツでは選挙資金の分配だけでなく、出馬する候補者選びでも党が大きな役割を果たすし、党議拘束が議会運営に影響を及ぼすことも多い。このためとっぴな発想を持つ政治家が、党の方針から逸脱した行動を取るのは難しくなっている。

政治家個人よりも政党に重点が置かれたシステムのため、有権者の投票行動も、党や政府の責任とより直接的に結び付く。それを補強するのが、比例代表制とそのために各党が作成する候補者の名簿だ。

アメリカでもかつては厳しい党議拘束があったが、マフィアのボスのように党の資金や人事を操る実力者の存在が問題視されるようになり、1969年の改革で党の役割は縮小されるようになった。

ドイツの制度も理想的とは言えないし、党の功労者を行政機関の重要ポストに任命する慣行が広がっているのは事実だ。しかし、大口献金と過激な候補者に有利に働くアメリカの政治システムと比べればずっとましに見える。

■高い投票率

9月のドイツ総選挙の投票率は約77%で、昨年の米大統領選の投票率は約67%だった(これでも高いほうだ)。ドイツでは国内の市町村に住民登録すると、自動的に有権者登録がなされる。アメリカのように毎回自分で有権者登録をする必要はない。

また、多くの民主主義国と同じように、投票日は日曜日で、ほとんどの人は投票のために仕事を休む必要がない(アメリカは火曜日)。郵便投票も問題なく行うことができ、今回の総選挙でも有権者の約40%が郵便で投票を行った。

■民主主義を守る民主国家

ドイツは民主主義の脆弱性に関する歴史的な経験を踏まえて、反民主主義的な政党や政治的なヘイトスピーチと戦うために積極的な措置を取っている。過去には共産党やネオナチグループに、こうした措置が適用されてきた。最近は右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に厳しい視線が注がれている。

ソーシャルメディアの反民主主義的な偽情報にもある程度の制限を課しているが、ドイツ人の多くは今も、政治の情報をテレビなど主流メディアに頼っている。ドイツにおける言論の自由の概念は、責任を伴う言論の自由であって、民主主義をおとしめようとする試みは許されない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

インフレ鈍化「救い」、先行きリスクも PCE巡りS

ワールド

韓国輸出、5月は前年比-1.3% 米中向けが大幅に

ワールド

米の鉄鋼関税引き上げ、EUが批判 「報復の用意」

ワールド

ガザ停戦案、ハマスは修正要求 米特使「受け入れられ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 2
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 3
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 4
    「ホットヨガ」は本当に健康的なのか?...医師らが語…
  • 5
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    メーガン妃は「お辞儀」したのか?...シャーロット王…
  • 9
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシストの特徴...その見分け方とは?
  • 3
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が知らないアメリカの死刑、リアルな一部始終
  • 4
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 6
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「金の産出量」が多い国は?
  • 10
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 7
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中