改革は遅く官僚主義的、それでもドイツの民主主義に学ぶべきこと
German Lessons
9月に投開票が行われたドイツ連邦議会選挙の看板(ベルリン市内)SEAN GALLUP/GETTY IMAGES
<極右をきっぱり拒絶してオトナの中道政治を選んだドイツの民主主義から、アメリカが学ぶべきこと>
9月に投開票が行われたドイツ連邦議会選挙(総選挙)は、昨年のアメリカ大統領選とは対照的な結果になった。
片や合理性と中道政党と「大人の」リーダーが支持され、極端なナショナリストは拒絶された。片や右派ナショナリストの権威主義者──しかも、選挙結果を力によって覆すように支持者をあおった──の再選が、辛うじて回避された(総得票数の47%を獲得した)。
もちろん、前者がドイツで、後者は世界最古の民主主義国の1つであるアメリカである。
これは皮肉な立場の逆転だ。アドルフ・ヒトラーの独裁が終わり、荒廃して、東西に分断されたドイツに民主主義の基礎を植え付けたのはアメリカだった。西ドイツ基本法の草案に加わったカール・フリードリヒら在米ドイツ知識人の専門家も協力した。
第1次大戦の敗戦後に誕生して失敗に終わったワイマール共和国とは異なり、新しい共和政は長い時間をかけて育まれ、1990年の東西ドイツ統一を迎えることができた。それまで民主主義を経験したことのない1600万人の東ドイツ住民を統合するプロセスは、まだ続いているが。
それでも今、ドイツは世界の民主主義国の模範と見なされるまでになり、最近のピュー・リサーチセンターの調査によれば、多くの国ではアメリカよりも好感度が高い。アメリカの民主主義の現状と未来を憂う人々は、このドイツの経験から何を学べるのか。以下に見ていきたい。
■政治献金の規制
アメリカの民主主義を揺るがす大きな問題の1つは、社会や経済の格差拡大と、ひと握りの集団への富の集中だ。こうなると、政治が富裕層や巨大企業のカネ(いわゆるダークマネー)に左右されやすくなる。
ドイツも政治資金をめぐるスキャンダルと無縁ではない。しかし、基本的に政党が献金や助成金を受け取る窓口となり、各候補者に分配する仕組みを取ることによって、オープンで透明性が高い仕組みが作られており、アメリカのような政治とカネの問題は回避してきた。
■議会制民主主義
アメリカの政治システムの大きな弱点の1つは、歴史家アーサー・M・シュレジンジャーJr.が言うところの「帝王的大統領制」だ。大統領制は、独裁者を生み出しやすい。
ドイツにも大統領はいるが、形式的な存在にすぎない。また、議会制民主主義がヒトラーを生み出した苦い経験から、個人に権力が集中しない工夫がされている。特に比例代表制は、複数の政党が互いに歩み寄り、合意を形成することを促してきた。それは必然的に政治の中道化をもたらす。