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ドイツも苦しむ極右監視と人権のジレンマ

独極右AfDのなかでも過激な指導者といわれるヘッケ(2020年5月)Hannibal Hanschke-REUTERS
<国内情報機関の連邦憲法擁護庁は極右AfDを監視対象としたが、裁判所に監視を差し止められた。逆にAfDに勢いをつけてしまった可能性もある>
ドイツの政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が、連邦憲法擁護庁の監視対象となったことが3月3日わかった。憲法擁護庁は反憲法活動を監視する国内情報機関で、ネオナチや極左活動、近年ではイスラム過激派などを主なターゲットとしている。監視対象には盗聴などを含めた調査が可能になる。AfDの党全体が連邦レベルでの監視対象となったのは、今回が初めてだ。
AfDはテューリンゲン州など3州で既に監視対象となっている。また2019年初めには、党内極右組織「翼」が連邦レベルでの監視対象となった。それに対してAfDは2020年4月に「翼」を解散させるなどの対応を行なった。現在の共同党首の一人イェルク・モイテンは比較的穏健派であり、党のイメージ改善に努めてきた。しかし党の極右化は改善されていないと当局によって判断された結果、憲法擁護庁は今回の措置に至ったとみられている。
連邦憲法擁護庁と「戦う民主主義」
連邦憲法擁護庁は、反憲法的団体を監視するために、西ドイツ時代の1950年に設立された。リベラル民主主義国家にとって、言論の自由や結社の自由は、最優先で擁護されるべき核心的な価値だ。
しかしかつてのナチスのように、憲法(ドイツ連邦共和国基本法)が掲げる民主主義や人権の尊重そのものを憎悪し、破壊しようとする勢力の、憲法的価値を毀損する言論や政党活動についてはどのように対応すればよいのか。ドイツの基本法は、18条や21条でそうした勢力と徹底的に対決する方針を明確化した。これを「戦う民主主義」と呼ぶ。カール・レーヴェンシュタインの憲法理論が基になっている。
AfDに結集した「新右翼」
2013年に結成されたAfDは、当初は反ユーロ勢力を結成した政党であり、ユーロ危機などを背景に支持を集めた。創設者たるベルント・ルッケは経済学者であり、2014年の各種選挙ではEU離脱やマルク復活と新自由主義的な経済政策を中心に戦っていた。同じく新自由主義的な政党である自由民主党(FDP)はAfDに票を奪われ、壊滅的な打撃を受けるほどであった。
しかし、その後AfDでは排外主義的な極右勢力が台頭し、創設者ルッケは党を追われることになる。AfDに集った極右勢力は、「新右翼」という名で知られている。2019年に訳書が出たフォルカー・ヴァイス『ドイツの新右翼』(長谷川晴生訳、新泉社)によると、この「新右翼」の人々の思想的ルーツは、ヴァイマル共和国時代の非ナチス的な右翼にある。ヴァイマル時代の非ナチス的右翼は、「保守革命」グループとも呼ばれることがあるが、これを定義したのが、やはり「新右翼」に繋がる人脈の一人である思想史家アルミン・モーラーであった。つまり、ナチスを公然と支持できないドイツにあって、ナチスではない右翼思想に自分たちの正統性の根源を求めたのが「新右翼」なのだ。しかしヴァイスは、こうした「新右翼」グループの主張は、結局はネオナチと区別がつかないと喝破している。
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