最新記事

日本政治

岸田政権、安倍元首相が推した高市カラー抑制か 

2021年10月7日(木)11時00分
安倍晋三元首相

岸田文雄首相の誕生に影響力があったとされる安倍晋三元首相の意向が、新政権の人事に必ずしも反映されなかったと永田町で話題になっている。写真は安倍晋三元首相。昨年6月、都内で代表撮影(2021年 ロイター)

岸田文雄首相の誕生に影響力があったとされる安倍晋三元首相の意向が、新政権の人事に必ずしも反映されなかったと永田町で話題になっている。長期政権を築いた安倍氏の求心力に陰りが見えるとの声が聞かれ、同氏が自民党総裁選で支援し、積極的な財政出動や安全保障政策を訴える高市早苗政調会長のカラーも抑制気味になりそうだとの指摘がある。

撤回された高市幹事長・萩生田官房長案

事情を知る複数の関係者によると、安倍元首相は自民党幹事長に高市氏を、官房長官に萩生田光一前文科相を希望していた。衆院選を目前に控えて保守層のつなぎ止めが重要と判断し、自身の政治信条に近い高市、萩生田両氏を党と内閣の要にそれぞれ据えようとしたという。

しかし、ふたを開けてみたら幹事長には甘利明税調会長、官房長官には松野博一元文科相が就任した。安倍氏の出身派閥である細田派の重鎮、森喜朗元首相が反対し、安倍氏の案は撤回されたという。保守色の濃い人選は「党内の大勢の意見とは異なった」と、政府関係者は指摘する。

安倍政権時代の安保・外交方針を高く評価してきた経済官庁幹部は、「今回の人事を見て安倍氏が派閥内を掌握できていないことが分かった」と話す。

外交・安保は岸田カラー

それでも高市氏は、党四役のひとつで、政策を取りまとめる政調会長に就任した。しかし、政府・与党関係者によると、少なくとも現在策定中の衆院選公約や経済対策の外交・安保の分野では、あまり高市氏が関わらない形で作業が進んでいるという。

高市氏は総裁選の決戦投票で岸田氏と協力を模索し合ったが、軽武装・経済重視の宏池会代表である岸田氏が、保守色の強い「高市氏の政策とどこに共通点があるのか疑問が大きい」(駒沢大学の山崎望教授)との声がもともと出ていた。

岸田氏も、総裁選では中国を念頭に中期防衛力整備計画の改定前倒しや敵基地攻撃能力の保有に前向きな姿勢を見せていた。しかし、4日の首相就任会見では、「(中国は)日本にとって重要な国であり、対話は続けていかなければならない」など穏健な発言にとどめた。

「政策は岸田カラーが強くなる」と、前出の政府・与党同関係者は言う。

ある経済官庁幹部は、安倍氏に近い高市氏が閣外の政調会長に就任したことで、財政規律を重視する岸田氏の政策運営が大きく妨げられることはないのではないかと期待する。高市氏は総裁選期間中、自国通貨建て国債を日銀買い入れや国内消化できている日本で財政破綻は起こらないと明言し、2パーセントの物価目標が達成できるまで、財政規律目標の達成を凍結する方針を示していた。

共同通信が4─5日に実施した世論調査では、岸田首相が安倍元首相、菅義偉前首相の政権の路線を「転換するべきだ」との回答は69・7%にのぼった。

(竹本能文 編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・中国人富裕層が感じる「日本の観光業」への本音 コロナ禍の今、彼らは何を思うのか
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米製造業新規受注、9月は前月比0.2%増 関税影響

ワールド

仏独首脳、米国のウクライナ和平案に強い懐疑感 「領

ビジネス

26年相場、AIの市場けん引続くが波乱も=ブラック

ワールド

米メタ、メタバース事業の予算を最大30%削減と報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 8
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中