最新記事

自然災害

高まる自然災害リスク、アメリカ本土の建造物の57%は危険地域にある

2021年7月5日(月)16時45分
松岡由希子

ハリケーンによる洪水に見舞われたルイジアナ州 2020年10月 REUTERS/Jonathan Bachman

<地震、洪水、ハリケーン、竜巻、山火事という5つの自然災害について、各災害事象の発生確率と規模をもとに米国本土で「ホットスポット」を特定した>

気候変動によって自然災害のリスクが高まっている。自然災害はより頻繁に発生し、より激しく、その規模も大きくなり、毎年、多くの建物や社会インフラに被害が及んでいるにもかかわらず、米国本土では、今もなお、都市開発や地域開発が活発にすすめられている。

このほど、米国本土の建造物の過半数が自然災害の起こりやすい場所にあることが明らかとなった。

自然災害のホットスポットは米国本土の31%に

米コロラド大学ボルダー校環境科学共同研究所(CIRES)の研究チームは、地震、洪水、ハリケーン、竜巻、山火事という5つの自然災害について、各災害事象の発生確率と規模をもとに「ホットスポット」を特定してマップ化し、不動産データベース「ジロウ」から抽出した米国全土の土地利用データと比較した。

2021年6月8日にアメリカ地球物理学連合(AGU)の学術雑誌「 アーツ・フューチャー 」で発表された研究論文によると、これら自然災害のホットスポットは米国本土の31%に及び、住居、学校、病院、オフィスビルなどの建造物の57%がホットスポットにあることがわかった。

fig1-hazard-hotspots.jpg

地震(赤紫)、洪水(青)、ハリケーン(灰色)、竜巻(黄色)、山火事(オレンジ)にさらされるホットスポット (Earth's Future, 2021)


地震やハリケーンが発生しやすい構造物の密度が最も高くなっているようです。国内の他の地域での開発と比較して、ハリケーンが発生しやすい地域の建物は、1945年以来3倍に急増しています。

2つ以上の自然災害のホットスポットが交わる建造物は1945年時点の17万3000棟から大幅に増加し、150万棟を超えている。

研究論文の筆頭著者でコロラド大学ボルダー校環境科学共同研究所のバージニア・イグレシアス研究員は、「気候変動がいくつかの自然災害による被害のリスクを高めている」と述べ、さらに既知の危険地帯に非常に多くの建造物を建設してきたことで、その被害が一層強まる傾向にあることを指摘している。

地震やハリケーンのホットスポットでは、都市部や郊外のすでに開発されたエリアにビルや住居などがさらに建設されることで災害リスクが高まっている。

特に気候変動がハリケーンの強度と頻度を増加させており、はるかに多くの人々が危険にさらされることを意味する。

地震のホットスポットでの建物棟数密度は米国本土の平均よりも1.7倍高く、ハリケーンのホットスポットでは3.1倍高い。また、水害や竜巻、山火事のホットスポットでは、過疎地や原野に新たな建造物を建設することで災害リスクが高まっており、たとえば、1992年から2015年の間、毎年、平均250万戸の住宅が山火事から1km以内にあった。

自然災害が社会経済的不平等を悪化させる

研究チームは、州・地方政府に対し、一連の研究成果の手法を用いて管轄区域のリスク評価を行うとともに、地域住民や地域コミュニティへのリスク影響度を高めるおそれのある社会経済要因を分析しておくよう提唱している。

また、イグレシアス研究員は「脆弱性は重大な問題だ。自然災害が社会経済的不平等を悪化させる証拠もある」と述べ、災害弱者が暮らすエリアやそのエリアでの自然災害リスクを明らかにしておく必要性についても説いている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:ドローン大量投入に活路、ロシアの攻勢に耐

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中