最新記事

日英関係

英国は日本を最も重視し、「新・日英同盟」構築へ──始動するグローバル・ブリテン

2021年3月16日(火)17時55分
秋元千明(英国王立防衛安全保障研究所〔RUSI〕日本特別代表)
ボリス・ジョンソン、河野太郎

固く握手をする河野太郎外相とボリス・ジョンソン外相(いずれも当時、2017年) Tolga Akmen-Pool-REUTERS

<伝統的な世界国家に回帰しようという英国が、外交・安全保障の新たな方針を発表する。その要となるのはインド太平洋地域、そして日本との関係を同盟関係に引き上げることだ。同盟とはなにか。日本にとってどんな意味があるのか>

英国政府は3月16日、欧州連合(EU)離脱後の国家戦略「グローバル・ブリテン」に関する初めての戦略報告「Integrated Review(統合レビュー)」を発表する。

この報告は英国が過去50年にわたって欧州の安全保障に専念しながらも、いつか伝統的な世界国家に回帰しようと長期にわたって温めてきたものであり、決してEU離脱を受けて考案した即製の戦略ではない。

むしろ、英国独自の伝統的な戦略理念の集大成であり、英国はこの戦略を実現する過程でEU離脱に踏み切ったとする見方のほうが的を射ている。英国にとって、東西冷戦後の最重要な報告であり、英国が今後、新しい世界秩序を形成するための野心的な戦略文書と言ってよい。

戦略報告の中で最も注目されるのは、英国が戦略の重心を新たにインド太平洋に置き、日本とこの地域に散在する英連邦国家と同盟を結ぶことによって、インド太平洋に新しい秩序を構築しようとしている点である。

この構想を最初に明らかにしたのは、英国外務省が2018年3月、議会下院外交特別委員会に提出した「グローバル・ブリテンに関する政府のビジョンと外務省の役割」(The government's vision of Global Britain and the role of the Foreign and Commonwealth Office in supporting and enabling government departments to deliver this vision)と題した覚え書きであった。

この文書は、まず英国がEU離脱後、これまで以上に世界に積極的に関与する国家になることを表明するもので、次のように述べた。

「世界の成長の中心であるインド太平洋地域に新しく重点を置く。そこには英連邦の一部があり、それは世界中の国と国を結ぶ広大なネットワークとして、我々に巨大な利益をもたらしてくれるだろう」(第11項)

つまり、この文書はインド太平洋地域に貢献することは英国の新しい挑戦であり、そのために、英国は1968年以来続けてきた伝統的な「スエズ以東からの撤退」という方針を転換し、スエズ以東へ戻ることを表明したのである。

2017年8月、メイ首相(当時)が新型空母で演説をした

ただし、新しい戦略は口先ではなく行動で示さなくてはならない。そこで、英国が決断したのがインド太平洋への軍事的関与であり、新型空母の展開であった。

この点を最初に明確にしたのは、テリーザ・メイ首相(当時)だった。彼女は2017年8月16日、完成したばかりの新型空母「クイーン・エリザベス」に乗艦し、飛行甲板の上で、乗組員を前に次のような演説をした。

「この艦は、英国が今後数年間、世界を舞台に新しく前向きな任務を自信を持って遂行することを明確なシグナルとして発信する。私たちは、完全なグローバルパワーとしてあり続けることを決断した。私たちは世界中の友好国や同盟国と協力しながら活動することになる。NATOの指導国として、欧州随一の軍事大国として、そして国連安保理の常任理事国として、英国は規範に基づく国際秩序を維持し、それを支える自由主義の価値を守る責任を負っている」

メイ首相はこのように述べて、英国は今後海軍の艦隊を世界中に派遣し、世界秩序の安定に貢献していくことを表明したのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・ウクライナ、鉱物資源協定に署名 復興投資基金設

ワールド

トランプ氏「パウエル議長よりも金利を理解」、利下げ

ワールド

一部の関税合意は数週間以内、中国とは協議していない

ワールド

今年のロシア財政赤字見通し悪化、原油価格低迷で想定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 2
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・ロマエとは「別の役割」が...専門家が驚きの発見
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中