最新記事

民主主義

「コロナで民主主義が後退する」という予想が当たらなかった3つの理由

COVID-19 STRENGTHENED DEMOCRACY

2020年11月19日(木)11時45分
ジョシュア・キーティング(スレート誌記者)

ベラルーシでは各地で反政権デモが(首都ミンスク) BELAPAN-REUTERS

<ウイルスとの戦いという口実の下、指導者や政権が新たな法律や監視システムを悪用することで民主主義は未曾有の危機を迎えるかに見えたが>

今年3月に宣言された新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は、民主主義にとって前代未聞の破滅的事態を意味するように見えた。

ウイルス拡散抑制に最も効果的な対策ははっきりしていた。大人数の集まりを禁じ、感染者と接触した人々を追跡することだ。こうした措置を各国市民は概して歓迎したし、ウイルスとの戦いという口実の下で、指導者が新たな法律や監視システムを権限掌握に悪用する可能性は高そうだった。

新型コロナを最初に経験し、最初に封じ込めたのは世界で最も強力な独裁主義的国家の中国だ。その厳格な対策が「世界標準」になるのは不可避のはずだった。

パンデミックは当初の予想どおり、または予想以上に深刻になっている。だがうれしいことに、民主主義の崩壊を予測した人々(私もその1人だ)は間違っていた。

新型コロナ時代の民主主義の現在形を示す最も明確で劇的な例は、ベラルーシだろう。長年、独裁体制を敷くルカシェンコ大統領が8月の大統領選で、不正疑惑のなか「勝利」してから、同国では大規模な抗議運動が続く。だが反政権デモの主な要因は、ルカシェンコが新型コロナ対策を頑固に拒否し、それによるダメージを嘲笑的な態度で否定したことにある。

新型コロナ封じ込めの成功を受けて、中国は「マスク外交」によるソフトパワー獲得に乗り出したが、大半の国がそっぽを向いている。当初、抑制に失敗して世界にウイルスを拡散させ、その原因がおそらく秘密主義の独裁的体制にあるせいで、中国的な政治モデルへの疑念は膨らんでいる。

対照的なのが台湾だ。世界一の成功例とみられる民主主義的で透明性の高い対策で、政治モデルの魅力が増している。

欧州では陰謀論に彩られた反ロックダウン(都市封鎖)運動が注目を集めるが、現実には新型コロナは、ドイツやオーストリアの極右政党に政治的惨事をもたらしている。有権者はより安定し、より高度な専門知識に基づく政府を求めている。

人種差別や警察の暴力に対する抗議も世界規模で広がっている。アメリカのBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動のデモには、7月上旬の時点で最大1500万~2600万人が参加。いくつかの事件と民衆の怒りが抗議活動に火を付けたことは確かだが、新型コロナとロックダウンが招いた数々のストレスがなければ、これほど劇的、持続的に反発が燃え上がることはなかったのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、南ア・印・ブラジル首脳と相次ぎ電話協議

ワールド

トランプ氏「紛争止めるため、追及はせず」、ゼレンス

ワールド

中国首相、消費促進と住宅市場の安定を強調 経済成長

ワールド

ロシア、ウクライナに大規模攻撃 ゼレンスキー氏「示
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 6
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    あまりの猛暑に英国紳士も「スーツは自殺行為」...男…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中