最新記事

日本社会

日本学術会議問題に僕たち映画人が声を上げた理由(森達也)

Why We Have to Fight Back

2020年10月13日(火)17時00分
森 達也(映画監督、作家)

共産党や左翼思想と何らかの関わりがあるとの疑いを持たれた映画監督や脚本家、俳優やプロデューサーたちは議会に召喚され、踏み絵のように共産主義と関わりがないことを証言するよう要請された。

しかし、召喚や証言を拒否した監督や脚本家たちがいた。議会侮辱罪で有罪判決を受けてハリウッドを追放された彼ら10人は、ハリウッド・テンと呼ばれている。その1人で共産党員であることを隠さなかったダルトン・トランボは1年近くの刑期を終えた後、『黒い牡牛』や『ローマの休日』などの脚本を別名で書き、さらにハリウッド復帰後は、自らが書いた小説を『ジョニーは戦場へ行った』のタイトルで監督した。まさに不屈の男。でも(エリア・カザンなど)圧力に屈した映画人たちも多かった。赤狩りが多くの標的をいけにえにするたびに、多くのアメリカ国民は歓喜の声を上げた。

もしもSNSがあったなら、「パヨクの映画監督ざまあみろ」「国益を害する反日分子を一掃しろ」的なツイートがあふれていただろう。

6人の学者たちの任命を拒否した理由は何か。その説明はいまだ首相の口からなされていない。今はまだメディアでもニュースになっているが、あと数日もすれば多くの人は関心を失うはずだ。ならば政権にとっての実績だけが残る。言論や表現の場はさらに萎縮する。もちろん70 年前とは状況は違う。でも本質は変わっていない。今回の声明に賛同した映画人たちは、その思いを共通して抱いている。

<2020年10月20日号掲載>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、CPI伸び鈍化もインフレ見

ワールド

サウジ、米に6000億ドル投資確約 トランプ氏訪問

ワールド

トランプ氏、対シリア制裁解除へ 暫定大統領との面会

ワールド

イランの核兵器保有決して容認せず、「最も破壊的な勢
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 3
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」にネット騒然
  • 4
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 5
    あなたの下駄箱にも? 「高額転売」されている「一見…
  • 6
    「がっかり」「私なら別れる」...マラソン大会で恋人…
  • 7
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 8
    トランプは勝ったつもりでいるが...米ウ鉱物資源協定…
  • 9
    「奇妙すぎる」「何のため?」ミステリーサークルに…
  • 10
    「出直し」韓国大統領選で、与党の候補者選びが大分…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つの指針」とは?
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 6
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中