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尖閣問題への米軍介入で中国軍との戦闘は不可避──仮想「東シナ海戦争」の結末

SLAUGHTER IN THE EAST CHINA SEA

2020年9月23日(水)20時15分
マイケル・ペック(防衛ライター)

だが、相反するともいえる目標と交戦規定を両立できるのか。

ブルーに最初に問われたのは、日本の艦隊がEEZに入った場合に想定される、中国の対艦ミサイル一斉射撃への対策だ。イージス防空システムを搭載した米軍イージス艦が日本艦隊を護衛すべきか、それとも米軍はサイバー戦を展開して中国側の指揮命令系統を妨害するべきか。一般参加者のうち6割の賛成を得たのが後者だ。

中国側も呼応する。日本艦隊へのミサイル攻撃か、サイバー戦による日本の命令系統妨害かとの問いに、一般参加者の54%が後者を選択。日米の多国籍チームは連絡網への依存度がより大きいため、サイバー攻撃合戦でより大きな被害を受けるのは日米だとの裁定が下された。

歴史でおなじみのパターンどおり、後はエスカレートする一方だ。EEZに入った日本の駆逐艦の多くを、中国戦艦が巡航ミサイル攻撃で沈める。報復として、日本の駆逐艦は中国の潜水艦1隻を破壊する。

ブルーは海上戦で終わりにせず、空軍力も動員する。日本側と共に、米軍のステルス戦闘機が尖閣諸島付近を飛行する中国の航空機を破壊。ターゲットの1つが、「空母キラー」ASBM(対艦弾道ミサイル)に標的データを送るドローンだ。

大損害を被った中国は米軍空母2隻をミサイル攻撃し、1隻を大破させる。決定的行動に出たのは終盤だ。ゲーム開始時から沖縄には日米の航空機が多数配備されていた。誘惑に負けた中国はミサイル攻撃で沖縄の基地の滑走路を壊滅させ、敵の航空戦力に深刻なダメージを与えた。

この時点で、シミュレーションは時間切れになった。

演習が終了する頃には、対立は膠着状態に陥ったようにみえた。中国は手痛い損害を負ったものの、魚釣島の占領を維持していた。もっとも、この手の防衛計画ゲームの主要な目的は勝者の見極めではない。

「地の利」があるのは中国

こうしたシミュレーションには主観的、または任意の要素が多過ぎるため、X国がY戦略によって勝利すると単純に断言することはできない。

CNASの演習では兵站や情報活動、世論形成、中国指導部や日米の同盟関係における政治的緊張が度外視されていた。中国で進む空母建造やF35ステルス戦闘機搭載に向けた日本の護衛艦空母化も考慮していない。さらに、現実世界の指導者はもちろん核使用の可能性を強く意識するはずだ。

この手のシミュレーションの価値は、むしろプロセスと洞察にある。ある出来事がどう展開し、ある決断がどんな理由で下され、どんな弱点と能力が浮かび上がるか──。

地の利を得ているのは中国だ。大量のミサイルを一斉射撃でき、都合のいい位置にある中国本土の基地から爆撃機や地上配備ミサイル発射装置に再装塡することもできる。

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