最新記事

2020米大統領選

共和党大会はトランプの危うい政治ショー 稀代のナルシシストが再選されたとき何が起こるのか

Farcical Show with Frightening Implications

2020年9月4日(金)15時50分
フィリップ・ゴードン(米外交問題評議会シニアフェロー)

magw200904_Trump2.jpg

4年間トランプに追従してきたペンスも副大統領候補に指名された JONATHAN ERNST-REUTERS

長男のドナルド・トランプJr.は、NAFTA(北米自由貿易協定)は「悪夢」で「史上最悪の貿易協定」の1つだったと非難した。しかし、彼の父親が決めた新しい協定も、それほど代わり映えはしない。

次男のエリック・トランプも兄に負けじと、大統領が「守った」「約束」の1つに中東和平を挙げた。しかし、イスラエルとアラブ首長国連邦の国交正常化を考慮に入れても、拡大解釈に思える。

もっとも、こうした誇張は想定の範囲内だ。注目すべき外交政策のメッセージは、大半の演説者が触れようとしなかった部分にある。

その最たるものが、気候変動の脅威に関する議論だ。党大会の最中も、カリフォルニア州で史上最悪の山火事が続き、過去15年間で最大規模のハリケーンがメキシコ湾岸に上陸した。緊急に対策を取らなければ頻繁に壊滅的な被害を受けるという前触れだと、科学者は警鐘を鳴らす。

しかし、党大会でこの問題が注目されることはなかった。トランプは、新型コロナウイルスは「奇跡のように」消えるだろうと繰り返してきた。コロナより潜在的な脅威になりかねない気候変動についても、最善の対策は話題にしないことだと言わんばかりだ。

さらに、かつての共和党は民主主義や人権を踏みにじる国があれば、深い遺憾の意を表明したものだが、この大会では誰もそれに触れなかった。無理もない。過去4年間トランプ政権それ自体に、身内びいきや腐敗、民主主義のルール違反がはびこってきたのだ。

共和党大会が行われていたまさにその時期に、毒を盛られたロシアの反体制派の指導者が、ドイツの病院に搬送され治療を受けていた。ベラルーシではロシアの後ろ盾を得た大統領が平和的なデモを武力で鎮圧する構えを見せ、中国では何百万人ものウイグル人が強制収容されていた。

にもかかわらず、次から次へと演壇に立った演説者はトランプを「自由の守り手」としてたたえるばかりで、こうした「不都合な真実」には一切触れなかった。

そればかりか党大会の運営そのものが「民主主義の規範とルールなど無視していい」というメッセージになっていた。例えばトランプの親族がメインスピーカーの半数近くを占めたこと。また、現職の国務長官が党大会で演説を行うのは異例のことで、国務省の規定に反するとみる向きもあるが、ポンペオは演壇に立って堂々とトランプの外交政策をたたえた。こんなありさまではとても他国の抑圧体制など批判できない。

この大会で語られなかったことがもう1つある。アメリカの利益を守るためにも同盟関係や多国間の枠組みは極めて重要であるという事実だ。

党大会では逆に、多国間の枠組みは批判と侮蔑の対象となった。演壇に立ったニッキー・ヘイリー前国連大使は国連を「独裁者と虐殺者と泥棒がアメリカを非難する場」と呼んだ。

【関連記事】トランプの嘘が鬼のようにてんこ盛りだった米共和党大会(パックン)
【関連記事】「菅、岸田、石破」と「トランプ、バイデン」で日米関係はどうなる?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:米株市場は「個人投資家の黄金時代」に、資

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック小幅続落、メタが高

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、156円台前半 FRB政策

ビジネス

FRB、準備金目標範囲に低下と判断 短期債購入決定
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中