最新記事

2020米大統領選

共和党大会はトランプの危うい政治ショー 稀代のナルシシストが再選されたとき何が起こるのか

Farcical Show with Frightening Implications

2020年9月4日(金)15時50分
フィリップ・ゴードン(米外交問題評議会シニアフェロー)

党大会の4日目、指名受諾演説を行うトランプがスクリーンに大写しに KEVIN LAMARQUE-REUTERS

<「愚策」を恥ずかしげもなく褒めたたえ、本当に対策の必要な問題については語らず、民主主義のルールも何のその──共和党が目をつぶる不都合な真実>

政党の全国大会が厳粛で冷静な分析の場になるとは、誰も思っていない。その意味で、8月24~27日に開催された共和党全国大会は期待を裏切るものではなかった。

それどころか、いつものように党派対立をあおる情報操作や、ドナルド・トランプ米大統領への熱烈な称賛だけでなく、強引に歪曲した解釈、恥ずかしいほどの追従、規範や法律の衝撃的な違反、そして、多くのあからさまな嘘で埋め尽くされた。

特に悪質なのは、トランプが前例のない経済的成果を上げてきたという主張だ。実際は、現在の景気後退が始まる前でさえ、経済成長と雇用創出は近年の大統領に比べて鈍化していた。

さらに、あらゆる移民を制限しようと執念を燃やすトランプを、移民に友好的と持ち上げた。そして、おそらく最も醜悪なのは、新型コロナウイルスによるアメリカの死者数は今のところ世界最多で、20万人に届こうとしているのに、トランプの対策を驚くほど称賛したことだ。

外交実績に関する歪曲は、もはや不条理に近い。米中関係は、実際はぼろぼろだ。今年2月に発効した米中貿易協議の「第1段階」合意は目標達成に程遠く、次の段階の交渉は当面、望めそうにない。

マイク・ポンペオ米国務長官は、トランプが中国の悪い行いを「暴いて」、新型コロナについて「中国に責任を負わせた」と強調した。その一方で、トランプの貿易戦争がアメリカ人に背負わせる巨額のコストや、対中貿易赤字の削減に失敗したことは、都合よく見過ごしている。

「トランプ大統領のおかげでNATOが強化された」という称賛も、実際はNATO加盟国の大半を疎遠にし、同盟の存在理由である相互防衛保障を弱体化させている。

北朝鮮に関しては、ポンペオはトランプが「緊張を緩和させている」と褒めそやすが、そもそも緊張を高めたのはトランプだ。「あらゆる予想を覆して」金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長を対話の席に着かせたという賛辞も、首脳会談を熱望していたのは金で、しかも金は会談で譲歩しなかったのだから、首をかしげたくなる。

他の演説者も似たような目くらましを使った。ランド・ポール上院議員は、トランプが民主党大統領候補のジョー・バイデン前副大統領と違って、イラク戦争に反対したと印象付けようとした。実際はトランプも当初は支持しており、侵攻から1年以上たって考えを変えたにすぎない。

語られない本当の問題

リチャード・グレネル前駐ドイツ米大使は、トランプがアンゲラ・メルケル独首相を「魅了」した場に居合わせたと語った。おそらくメルケル自身は選ばない言葉だ。

【関連記事】トランプの嘘が鬼のようにてんこ盛りだった米共和党大会(パックン)
【関連記事】「菅、岸田、石破」と「トランプ、バイデン」で日米関係はどうなる?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、新誘導技術搭載の弾道ミサイル実験

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ

ビジネス

ユーロ圏インフレ率、25年に2%目標まで低下へ=E
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中