最新記事

テロ

比テロ組織が誘拐・海賊を再開か テロ専門家などシンポジウムで指摘

2020年7月31日(金)21時47分
大塚智彦(PanAsiaNews)

誘拐被害者の多くはインドネシア人

2020年1月にインドネシア人の未成年1人を含む5人が誘拐されて以降、新たな誘拐事案は発生していないとインドネシア外務省はしているが、2016年以降フィリピン南部の海域ではインドネシア人船員や漁民がターゲットとなった誘拐事件がこれまで16件発生し、合計で54人がその被害に遭っていることを明らかにしている。

フォーラムにオンラインで参加したインドネシア外務省のユダ・ヌグラハ在外国民保護担当官は「誘拐被害に遭った多くのインドネシア人は南スラウェシ州ワカトビ地区出身者である。同地域は深刻な経済低迷から若者の失業者が多く、貨物船や漁船に乗り組んでフィリピン海域で活動するケースが多い」としている。このため中央政府や州政府に対して「地域の貧困、失業問題という根本的な課題を解決することも誘拐、海賊の被害軽減につながる」とも指摘している。

その上でこれまで何回か身代金の支払いに応じてインドネシア国民の解放に当たってきた経緯があることを認めながらも「インドネシア政府としていつまでも無制限に人質解放のために身代金の支払いに応じるわけにはいかない」として今後の身代金支払に関して消極的な立場を示した。

IPACのデカ・アンワル研究員によると、2010年ごろから「アブ・サヤフ」によるインドネシア人をターゲットにした誘拐、海賊行為が増加したという。原因の一つはインドネシアからフィリピンに輸出する石炭が増加し、その石炭を運搬するインドネシアの荷船の大半が老朽船で極めて船足が遅く、海上で容易に海賊の標的になることが挙げられるとしている。

その後2016年から2017年にかけて誘拐や海賊行為という海上での「アブ・サヤフ」の犯罪行為は小康状態になった。この時期フィリピン海軍や海上保安組織などによる警戒監視が強化されたことに加え、中東のテロ組織「イスラム国(IS)」から「アブ・サヤフ」に対する資金提供があったためと分析されている。

しかし2018年にはインドネシア人を人質にとると身代金が支払われるケースが比較的よくあることから再び誘拐、海賊が増加傾向をみせたものの、2020年1月以降原因は判然としないものの再び下火傾向をみせていたという。


【話題の記事】
・新型コロナウイルス、患者の耳から見つかる
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・がんを発症の4年前に発見する血液検査
・韓国、コロナショック下でなぜかレギンスが大ヒット 一方で「TPOをわきまえろ」と論争に

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノバルティスとロシュ、トランプ政権の薬価引き下げに

ビジネス

中国の鉄鋼輸出許可制、貿易摩擦を抑制へ=政府系業界

ワールド

アングル:米援助削減で揺らぐ命綱、ケニアの子どもの

ワールド

訂正-中国、簡素化した新たなレアアース輸出許可を付
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中