最新記事

感染症対策

知られざる日本のコロナ対策「成功」要因──介護施設

One Secret of the “Japan Model”

2020年7月16日(木)15時10分
マルガリータ・エステベス・アベ(米シラキュース大学准教授)

各施設で早期に面会を制限、通所サービスも利用率が大きく減少した 読売新聞/AFLO

<いまだ議論の続く「日本モデル」の謎。ほとんど注目されていないが、日本が新型コロナウイルス第1波を抑え込めたカギは、高齢者施設での地味な対策ではないか>

アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大が続き、日本でもまた感染が拡大しているのではないかと言われている。第1波に各国がどう対処したかを比較するのは、次の感染の波に備える意味でも重要である。

日本を含む東アジアにおけるコロナ死亡者数は、欧米と比べると格段に少ない。台湾や韓国では、総統や大統領が陣頭指揮を執り、検査数を素早く増やし、ハイテクを駆使して、欧米のような経済的損失が甚大なロックダウン(都市封鎖)なしで第1波を切り抜けた。ところが、日本ではオリンピックへの配慮からか政治的な初期対応は随分と遅れたにもかかわらず、やはり死亡者数が非常に少ない。

国内では「日本モデル」が話題になっているが、国際的にはあまり興味を持たれていない。理由は3つ。1つは政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーも対外的に説得性がある説明をするに至っていないこと。2つ目は、データの公表があまりにも遅く、コロナ関係の国際的データベースには日本を除外しているものがあること。3つ目は、検査数の少なさが日本のデータの信憑性を低めていることだ。

専門家会議のメンバー自身が、日本の成功解明には社会科学者の知見も必要だと述べているが、筆者は、先進諸国の政策や制度の違いがどのように結果の差異をもたらすかを研究する比較政治学者として、まさに、医学・疫学の専門家とは違う視点から「日本モデル」を再考したい。

あまり言及されていないが、筆者は、日本の成功の大きなカギの1つは高齢者施設での感染拡大を抑制できたことだと考える。国際比較をすると、日本の介護関連行政と介護施設が非常に初期の段階で、コロナ対策を始めていたことが分かる。高齢者施設にいる人たちは慢性疾患があるなど、非常にリスクが高い。この集団をうまく守れるか否かはコロナ対策の根幹だ。

いち早くロックダウン

これには疫学者や官邸や都知事などスポットライトの当たる人たちの判断ではなく、行政と各施設で以前から積み重ねてきた地味なインフルエンザ感染予防対策などが大きく寄与している。だがそれ故に十分に評価されるに至っていない。この点を見過ごし、介護施設・事業関係者の尽力への評価と資源配分を怠ると、次の感染の波を無事に超えられない可能性がある。

【関連記事】日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議
【関連記事】西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、景気敏感株に物色 トヨタ自

ビジネス

日鉄が中期計画、30年度に実力利益1兆円以上 設備

ワールド

ロシア、ウクライナのドローン90機撃墜

ビジネス

中国万科 、国内社債の償還1年延期を要請 2本目=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれなかった「ビートルズ」のメンバーは?
  • 3
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキャリアアップの道
  • 4
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 5
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナ…
  • 8
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 9
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 10
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中