最新記事

感染症対策

知られざる日本のコロナ対策「成功」要因──介護施設

One Secret of the “Japan Model”

2020年7月16日(木)15時10分
マルガリータ・エステベス・アベ(米シラキュース大学准教授)

magw200716_JapanModel1.jpg

欧米では感染が病院から老人ホームに広がる「人災」も(イタリアの病院) MARCO MANTOVANI/GETTY IMAGES

日本では、厚生労働省が1月29日に都道府県各自治体の介護保険担当者に所管の高齢者施設に対して、新型ウイルスについての周知を徹底するように連絡。2月24日には、面会制限と物資の搬入についても感染に留意して施設内で行わないように指示した。多くの介護施設側はこれを面会禁止の通知と受け取り、2月末までには介護施設の「ロックダウン」が起こった。

日本政府が介護施設に注意喚起し面会禁止にしたのは、香港の1月下旬、韓国の2月中旬に続くもので、非常に早かった。筆者が5月8日に首都圏の20ほどの介護施設のウェブサイトを確認したところ、面会制限のみの施設が1カ所あっただけで、その他の施設は全て2月初旬から末日までにかけて面会・外出禁止を決めていた。

ウェブサイト「LIFULL介護」で行われた「介護施設における新型コロナ感染予防対策」実態調査(全国の介護施設296社が回答)によると、約68%は面会禁止、約76%は外出制限をしたと答えている。職員による消毒などの感染予防対策は97%が行っていた。通所サービスなどでは自主休業もしくは利用手控えにより、2月と3月の利用率が著しく減少したことが全国介護事業者連盟の緊急調査で明らかになっている。

日本人はこれを聞いても当たり前だと思うかもしれないが、とんでもない。

死亡者数の多い欧米諸国では、類似の措置は東アジアから1カ月以上も遅れて、3~4月に入ってからだった。イタリアでは3月上旬、スペインは3月の2週目、アメリカでは3月13日、イギリスはさらに遅かった。これらの国々では、コロナ死亡者の半数近くが老人ホーム・介護施設での感染が原因だ。

イギリス、イタリアとアメリカでは、高齢者を病院から老人ホームに移動させ感染を広げたり、施設内で感染者を隔離していなかったりと人災に匹敵するような判断ミスも高齢の施設入所者の犠牲を広げた。大型のクラスターとなり死亡者が発生してからやっと、政府が高齢者施設の重要性に気が付いた状況だった。

一方、驚くべきことに、170万人以上が高齢者施設に入所・通所している世界一の高齢化社会である日本で、施設での集団感染が少ない。厚労省が3月31日に公表した医療・福祉施設でのクラスターは14件あり、そのうち3件のみが高齢者施設であった。

自動的に対策が作動した

残念ながら、厚労省はこのデータをアップデートしていないので、より新しいデータとしては、共同通信社が独自に各自治体に問い合わせして集計した5月8日時点のものを国際比較に利用してみよう。これによると、日本でコロナによる死亡と認定された人のうちの14%が施設での感染と推計される。ICU(集中治療室)の病床数と医療従事者数の人口比が日本よりも優れていたドイツでさえ、死亡者の39%が高齢者施設における感染が原因であった。国際的にコロナ対策で評価が高い韓国でも34%だ。

【関連記事】日本の「生ぬるい」新型コロナ対応がうまくいっている不思議
【関連記事】西浦×國井 対談「日本のコロナ対策は過剰だったのか」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ミャンマー総選挙、第1回は国軍系USDPがリード 

ワールド

ウクライナ、年初から連日モスクワ攻撃とロ国防省 首

ビジネス

政治の天井破れた、相場も天井破りの高値を=大発会で

ワールド

ローマ教皇、ベネズエラの独立維持求める 人権と法の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 6
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中