最新記事

新型コロナウイルス

新型コロナが細胞に生やす不気味な触手の正体は

Coronavirus Makes Cells Grow Tentacles, Microscopic Images Reveal

2020年7月2日(木)16時35分
カシュミラ・ガンダー

感染した宿主細胞とそこから伸びる触手 DR. ELIZABETH FISCHER, NIAID/NIH

<「フィロポディア」と呼ばれる突起は、周囲の健康な細胞にもウイルスを広げていくための悪魔の触手。これを阻止できれば治療薬の開発につながるが>

「SARS-CoV-2ウイルス(新型コロナウイルス)」は、細胞に侵入した後に触手のような突起を伸ばし、周辺の健康な細胞を犯していく――こんな研究報告が発表された。

米学術誌「セル」に掲載された研究報告には、サルの腎臓の細胞に入り込んだ同ウイルスが触手を伸ばす様子を、特殊な装置で撮影した顕微鏡画像が添えられている。

国際的な研究チームが実施した同研究によれば、新型コロナウイルスは、侵入した細胞に「フィロポディア(糸状仮足)」の形成を促すようだ。フィロポディアは細い突起状の構造物で、細胞の移動や分裂に重要なタンパク質を豊富に含み、周囲の環境を調べるアンテナの役割を果たす。

公表された顕微鏡画像を見ると、フィロポディアのところどころに新たなウイルスの粒子が付着している。研究者たちは報告の中で、「感染していない細胞に比べて、感染している細胞の突起はずっと長く、より多くの分岐があった」と述べている。

webs200702-corona01.jpg

白く見えるのが、感染した細胞の周囲から伸びる触手 DR. ROBERT GROSSE, CIBSS, UNIVERSITY OF FREIBURG

webs200702-corona03.jpg

感染した細胞から伸びる触手。黄色い粒は周囲を侵そうとするウイルス DR. ELIZABETH FISCHER, NIAID/NIH. BOUHADDOU ET AL. (c)ELSEVIER2020


また研究では、(ウイルスが侵入した)宿主細胞とフィロポディアのどちらについても、動作と分裂に「劇的なリワイヤリング(情報伝達経路の繋ぎ変え)」が確認された。これらの変化は、感染する際に、ウイルスがキナーゼと呼ばれる酵素を乗っ取っていること示していると研究者たちは指摘する。

複製に適した環境をつくりだす

ヨーロッパ・バイオインフォマティクス研究所の研究員で、研究報告の共著者であるペドロ・ベルトラオは、声明の中で次のように述べている。「新型コロナウイルスは、人間の細胞が一定の周期の中で分裂したり修復したりするのを阻止し、ウイルスが複製を続けるのに適した環境をつくり出している」

さらに研究チームは、既存の薬で宿主細胞の変化を阻み、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)を治療することが可能かどうかを検証。その結果、7つの既存薬に効果が期待できることがわかった。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が起きて6カ月。現在、別の病気を治療するための複数の既存薬がCOVID-19の治療に使用されているが、特効薬は見つかっていない。

研究チームによれば、タンパク質の分析に使ったのは人間の細胞ではなかったため、研究成果は限定的なものだ。だが既存薬が新型コロナウイルスにどのような作用をもたらすかを調べる際には、サルの細胞に加えて人間の肺の細胞も使用したということだ。

米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のケバン・ショカート教授(細胞分子薬理学)は、チームとしては今後、COVID-19の治療薬開発に役立つことを期待して、キナーゼに注目してさらなる研究を行っていきたいと語った。

<参考記事>米南部の感染爆発は変異株の仕業?
<参考記事>新型コロナウイルス、モノの表面にはどのくらい残り続ける?──実験結果

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ氏、原油高抑制策を検討

ワールド

トランプ氏、米地上部隊のイラン派遣巡る決定には「程

ワールド

情報BOX:G7、緊急石油備蓄の放出を検討 各国の

ワールド

仏、地中海・紅海へ海軍艦艇約12隻を派遣 同盟国防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 8
    プーチンに迫る9月総選挙の暗雲
  • 9
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 10
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中