最新記事

米メディア

新型コロナでテレビニュースは再び黄金時代を迎えたのか?

CHASING THE GHOST OF WALTER CRONKITE

2020年6月27日(土)14時00分
ポール・ボンド(カルチャー担当)

非営利のジャーナリズム研究機関、ポインター研究所のアル・トンプキンスによれば、一般論として危機の時代にはテレビのニュースが視聴者の信頼を得やすい(ただし長続きする保証はない)。

「テレビで見るコロナ危機の話は信用できないと思われたら一巻の終わり」だが、非常時にはたいてい「テレビのニュースは『いい仕事をした』と評価されるものだ」と、彼は指摘する。「今回もトランプ大統領は『フェイク』を連発しているが、それに同調する人は増えていない。経済活動の早期再開を求めている右派のデモ隊も、報道が『フェイク』だとは言っていない」

ABCのミュアーが番組作りで大事にしているのは、意見を異にする人たちでも共感できるような話を伝えること。だから休業命令の長期化に抗議する人たちの話を取り上げたら、経済活動の早過ぎる再開を憂慮する人の声も必ず伝える。

「両方を戦わせるんじゃない。両方の人に事実を伝える。そうすれば疑心暗鬼は解消できる」とミュアーは言う。「二極化した社会でも、共通の懸念にきちんと応えれば視聴者はついてくる。早く職場に戻りたい、早く子供を学校に行かせたいと言う人も、心の底では本当に安全なのかと心配しているはずだから」

ケーブル局との違いを鮮明に

今さら「アメリカで一番信用できるクロンカイトおじさん」の時代には戻れない、と元CBSニュース社長のアンドルー・ヘイワードは言う。それでも「いまニュースが輝いているのは、歓心を買うより信頼を築くことに努めているからだ」。

実際、ローカルニュースも頑張っている。ヘイワードによれば、「以前は鮮度だけで脈絡なしだったが、今は違う」。

今年は秋に大統領選があるし、コロナ危機が暮らしに与える負の影響は長く尾を引く。どちらもテレビのニュースには追い風となり得る。南カリフォルニア大学のベラントーニは言う。「経済の回復には時間がかかるから、みんな職探しや雇用の維持に役立つヒントが欲しくてテレビのニュースを見るだろう。『打倒トランプ』の行方も、テレビで見守るのが一番だ」

CBSニュースのシェイラーも強気で、「どちらの話題も自分の安全や懐具合、子供の教育や親の介護に直結するから、今後も視聴者は離れないと思う」と語る。

懐疑的なのはポインター研究所のトンプキンスで、家族がテレビの前に集まってニュースを見る光景が復活するとは思えないと言う。そもそもテレビを最もよく見るのも、新型コロナウイルスに最も弱いのも高齢者だ。「要するに彼らは、毎晩のテレビ視聴という昔の習慣を取り戻しただけ。地方紙の退潮も、今のテレビには追い風になっている」

全国ネットの地上波放送とケーブルテレビの違いを強調するのは元CBSのヘイワード。「ケーブル局なら左右どちらかの人にニュースを売って稼げばいい。だから話は簡単だが、地上波はバランスに配慮し、信頼できる情報キュレーターの役割に徹する必要がある」

そんな地上波のニュースに、今は若い世代も注目している。「大事なのは彼らを二度と逃がさないこと」だとヘイワードは言う。「地上波テレビの強みのどれがスマホで生きるか。それを理解しなければ」

<本誌2020年6月23日号掲載>

【話題の記事】
・コロナに感染して免疫ができたら再度感染することはない?
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・今年は海やプールで泳いでもいいのか?──検証
・韓国、日本製品不買運動はどこへ? ニンテンドー「どうぶつの森」大ヒットが示すご都合主義.

20200630issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年6月30日号(6月23日発売)は「中国マスク外交」特集。アメリカの隙を突いて世界で影響力を拡大。コロナ危機で焼け太りする中国の勝算と誤算は? 世界秩序の転換点になるのか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

コムキャスト、ワーナー・ブラザースの事業買収検討 

ビジネス

日経平均は反落、AI関連中心に下押し 物色に広がり

ビジネス

ホンダ、通期予想を下方修正 四輪中国販売減と半導体

ビジネス

GPIF、7―9月期運用益は14.4兆円 株高で黒
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中