最新記事

欧州安保

国防総省も寝耳に水、トランプのドイツ駐留米軍削減計画に青ざめるNATO同盟国

Trump's Plan to Pull Troops from Germany 'Massively Disruptive'

2020年6月11日(木)10時00分
ブレンダン・コール

ドイツのラムシュタイン空軍基地を訪れたトランプ夫妻 Jonathan Ernst‐REUTERS

<計画が実現すれば欧州の防衛にとって破壊的だが、実現性には疑問が残る。それよりも、何が飛び出すかわからないトランプ政権の予測不能さにうんざりした同盟国はアメリカ離れを始めている>

6月5日に複数のメディアで報じられたドイツ駐留米軍を4分の1以上削減するドナルド・トランプ大統領の計画は、アメリカの国家安全保障担当の高官たちにとって寝耳に水だったようだ。そして、この計画が実現した場合の戦略的なインパクトについてさまざまな憶測が生まれている。

トランプがドイツに駐留する米軍部隊の兵員を9500人削減し、2万5000人に縮小しようとしているという報道に、政治家や軍事専門家は落胆の声を上げた。それはロシアに優位性を与え、NATOがヨーロッパの地政学的なバランスを維持するのを困難にするからだ。

国防総省の配備報告書によると、ドイツには3月31日の時点で、3万4674人の米軍部隊が駐留している。これは、トランプが大統領に就任する前の2016年12月とほぼ同じ数だ。

しかしトランプ政権下では、欧州における米軍の活動に関わる支出が大幅に増加している。そのほとんどが、2014年のロシアによるクリミア併合を契機にロシアに対抗するためにオバマ政権下で始まった米国防総省のプログラム「欧州抑止イニシアチブ(EDI)」に対するものだ。

米公共ラジオ局によると、オバマ政権がEDIに費やした支出は52億ドルだったが、トランプ政権は前政権に比べて3倍以上の172億ドルを支出している。

国防総省も蚊帳の外

ドイツ駐留米軍が縮小されても、アメリカからの数十億ドルの資金に支えらえた米軍約5万人が欧州全域に残るとみられており、ある米政府高官は、他のNATO諸国の軍事費が増加していることから、ドイツ駐留米軍はそれほど重要ではないと語っている。

今回の削減については、ドイツのアンゲラ・メルケル首相やG7に対するトランプの不満や、トランプの熱烈な支持者であるリチャード・グレネル前駐独米大使の影響まで、情報筋からさまざまな理由があげられた。

NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は8日、2030年を目標年とする NATOの政治的機能強化策を発表した際、「われわれは常にアメリカと協議しており、他のNATO加盟国と軍の配備やヨーロッパでのプレゼンスについて協議している」と述べ、駐留米軍削減についてのコメントは避けた。

ロイターによれば、米国防総省は削減について正式な命令を受けておらず、正式に確認もしていない。そうなるとこの話は、2018年12月に発表されたシリアからの米軍完全撤退など、実現されなかった他の計画と同様の結末を迎えるかもしれない。発表から1年半経った現在も、米軍はシリア駐留を続けている。

<参考記事>「ドイツの黒人はドイツ人とは認められない」 ベルリンで起きた共感のデモ
<参考記事>ドイツで抗議デモ急増、陰謀論者と反ワクチン主義者が警察とジャーナリストを攻撃

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米国防長官、在韓米軍の「柔軟性」検討へ 米韓同盟で

ビジネス

ニデック、6000億円の融資枠 三菱UFJ銀・三井

ワールド

サウジ皇太子、米国公式訪問へ トランプ氏と18日会

ワールド

豪中銀、予想通り政策金利据え置き 「慎重な姿勢維持
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中