最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス知られざるもう一つの医療現場 退院後ケアという戦い

2020年5月4日(月)12時38分

回復支援、なお未知の領域

アジャイさんが所属するのは、23の病院を擁する州内最大の医療事業者ノースウェル・ヘルスである。

ノースウェルでポストアキュート(急性期治療後)医療担当ディレクターを務めるマリア・カーニー医師は、入院していた患者が罹患前の生活の質を取り戻せるとしても、ほとんどすべての場合、退院後には何らかの医学的なフォローアップやリハビリテーションが必要になるだろう、と話す。

「私たちはまさに未知の領域に入りつつある。患者が今まさに何を必要としているか分からず、身体的にも精神的にもひどく弱っているのが分かるというだけだ」とカーニー医師は言う。「私たちの医療システムが回復の次のフェーズにどのように取り組めるのか。それが課題になっていくだろう」

これまでに退院した患者のうち、多くは脚部の血栓、筋萎縮、疼痛、倦怠感、心臓の問題、呼吸器系の苦しさの継続に悩まされている。

カーニー医師によれば、挿管処置を受けた患者の場合は、退院後もこうした症状が深刻に見られる。また、長期にわたる鎮静状態による影響、すなわち「集中治療後症候群」と呼ばれる症状と思われる認知障害を示す患者も多いという。

今週、ノースウェルが運営する病院を退院した感染患者の数は6600人を超えたため、同社ではさらに多くの訪問看護師を雇用することを検討している。また遠隔診療サービスの拡大や、退院患者の収容に向けた地元の経験豊富な介護施設との提携もありうるとカーニー医師は言う。

微笑みと落ち着き

アジャイさんは患者の自宅で、患者本人やその家族からの山のような質問に答える。食料品店にどれくらいの頻度で行くべきか、血圧を自分で測定するにはどうすればいいのか。

彼女は聴診器を使い、体液蓄積の兆候がないか患者の呼吸音を確認する。患者とその家族に、洗面用具を共用しないよう、ドアの把手や電灯のスイッチを消毒するよう念を押す。

冷蔵庫をチェックし、空であれば、慈善団体による食品配達を頼むという手段を提案することもある。横になっていると呼吸が苦しくなるので椅子にもたれて寝ていることが分かれば、もっと酸素供給が必要だと医師に伝える。

アジャイさんが担当するCOVID-19確定患者5人は、自宅に戻ってからゆっくりと着実な回復を示しており、再入院が必要となった患者は1人もいない。

アジャイさんは、患者の近くにいるときは二重のマスクとフェイスシールドを絶対に外さない。だが、彼女が微笑んでいることは、シルバーのアイシャドウを施した目の周りに浮かぶ皺で分かるし、彼女の落ち着いた声は安心感を与えてくれる。

「世の中は大騒ぎだが、患者のために平静さを保っている」とアジャイさんは言う。「怖がっているのは患者も私たちも同じだ。でも、私たちには平静さを保つことができる」

(翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【関連記事】
・「集団免疫」作戦のスウェーデンに異変、死亡率がアメリカや中国の2倍超に
・東京都、新型コロナウイルス新規感染91人確認 都内合計4568人に(グラフ付)
・『深夜食堂』とこんまり、日本人が知らないクールジャパンの可能性
・感染深刻なシンガポール、景気悪化で新型コロナ対応措置を段階的に解除へ


20050512issue_cover_150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、米の入国禁止令を非難 「底深い敵意示してい

ワールド

エルサルバドルに誤送還の男が米に帰国、不法移民移送

ワールド

米連邦高裁、AP通信への取材制限認める 連邦地裁判

ビジネス

中国外貨準備、5月末時点で3.285兆ドル 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 2
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全な場所」に涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 5
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 6
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「銀」の産出量が多い国はどこ?
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    ディズニーの大幅な人員削減に広がる「歓喜の声」...…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっしり...「これ何?」と写真投稿、正体が判明
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中