最新記事

イギリス

イギリス人の対コロナ意識を変えた2つの出来事

EMERGENCY NOW VERY REAL

2020年4月13日(月)20時00分
ナイジェル・ファラージュ(イギリス独立党〔UKIP〕元党首)

「自主隔離」中の3月末にテレビ会議に参加したジョンソン首相 ANDREW PARSONS-10 DOWNING STREET-HANDOUT-REUTERS

<危機は人間の最善の部分と最悪の部分をさらす。新型コロナウイルスの拡大防止策としてロックダウン措置を取ったイギリス。厳しい行動制限に国民はストレスを募らせていたが...>

ブリッツ・スピリッツ──私と同じか下の世代のイギリス人は、この精神論を繰り返し聞かされてきた。

1940年9月から8カ月間、ロンドンをはじめイギリスの主要な港や工業都市がナチス・ドイツによる大規模な空襲「ザ・ブリッツ」にさらされるなか、国民は冷静さと決意を示し続けた。ウィンストン・チャーチル首相の下で一致団結し、誰もが自分の役割を果たした、と。

しかし、第2次大戦中のイギリスをめぐる真実は、はるかに複雑だった。

1940年5月、フランスでイギリス軍が英国史上最も屈辱的な敗北の危機に瀕していた頃、英議会の事実上のクーデターでネビル・チェンバレン首相が退任した。続く5年間、チャーチルの保守党政権は分裂と苦悩に揺さぶられた。内政も戦争と同じくらい困難を極めた。労働組合との対立は終わりが見えず、深刻なストライキが相次いだ。

国家の連帯感を考えるとき、危機が人間の最善の部分と最悪の部分をさらすというのは、不愉快な現実だ。戦時中はごく一部の個人が暴利を得た。前例のない規模の闇市場も出現した。あの時代のイギリスを公正に検証すれば、一部の人が信じたいような美しい日々では決してなかった。

現在の私たちが直面している戦いも同じだ。ボリス・ジョンソン首相が国家の非常事態と呼んだ新型コロナウイルスの危機を前に、英政府の対応は、私に言わせれば最初から恐怖でしかなかった。

政府は当初、かなりの人数が免疫を獲得した集団内では感染が拡大しないという「集団免疫」戦略を取った。あのままならイギリスの死者は50万人に達していただろう。

幸い、ハンドブレーキが引かれた。ジョンソンは3月23日にテレビ演説を行い、国民に外出禁止を要請。この方針転換がなければ、医療は完全に崩壊していた。

今回のロックダウン(都市封鎖)は、現代のイギリス人の記憶にある限り最も厳しい行動制限を伴うが、既に人々の反発を招いている。さらに、この国では経験のない恣意的な警察権力の押し付けが、大きな嫌悪感を生んでいる。

首相の感染が警告になった

公園での日光浴は厳禁。散歩の途中でベンチに座ろうものなら、警察官に問いただされ、「移動しろ」と追い立てられる。人との「社会的距離」を保って感染蔓延を防ぐためだとしても、市民を軟禁状態に追い込むつもりなのかと思わずにいられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EU、35年以降もエンジン車販売を容認する制度検討

ビジネス

日経平均は続落、5万円割れ AI関連株の下げが重し

ワールド

SNS情報提出義務化、米国訪問に「委縮効果」も 業

ビジネス

三菱UFJFG社長に半沢氏が昇格、銀行頭取は大沢氏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中