最新記事

感染症対策

新型コロナウイルス・ワクチンに潜むリスク 開発焦れば逆効果も

2020年3月17日(火)12時41分

製薬会社や医学研究に対する規制上の監督権は、各国の規制当局が握っている。そのうち最も強力な機関である米食品医薬品局(FDA)は、上記の会合でのコンセンサスを支持しており、臨床試験スケジュールを加速させることを邪魔しないと示唆している。

FDAのステファニー・カッコモ報道官は声明のなかで、「新型コロナウイルスなど公衆衛生上の緊急事態に対応する際は、規制を柔軟に運用し、あるワクチン・プラットホームに関連するすべてのデータを考慮するつもりだ」と語った。ワクチン増強に関する動物試験については、FDAは特にコメントしていない。

とはいえ、コロナウイルス・ワクチンの開発担当者は、ワクチンそのものが有毒でなく、ウィルスに対する免疫反応を支援する可能性が高いことを確認するために、通常の動物試験を行わなければならない。

「シアトル・リスク」

新型コロナウイルス・ワクチンの候補としては、米ジョンソン&ジョンソン、仏サノフィSAなどを含む研究所・製薬会社により、約20種類が開発中である。米国政府はコロナウィルスの治療・ワクチンのために30億ドル以上の予算を計上している。

臨床試験に最も近い段階にあるのは、国家予算で運営されている国立衛生研究所(NIH)と協力関係にあるバイオテクノロジー企業モデルナ社で、今月シアトルで45人を対象とする臨床試験を開始する計画を発表している。

NIHはロイターに対し、臨床試験と並行してワクチン増進の具体的なリスクに関する動物実験を進めていくと述べており、これによって、さらにワクチン投与の対象者を拡大することが安全かどうかが確認されるはずだとしている。モデルナにもコメントを求めたが回答は得られなかった。

NIHの一翼を担う国立アレルギー感染症研究所(NIAID)の微生物・感染症部長を務めるエミリー・アーベルディング博士によれば、この計画はWHOにおけるコンセンサス及びFDAの規制要件を満たすものだという。NIHの報道官は、臨床試験には14ヶ月を要すると述べている。

メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)のウイルス学者・ワクチン研究者であるグレゴリー・ポーランド博士は、こうしたアプローチに疑問を投げかける。「(ワクチン開発を急ぐのは)大切なことだが、科学者も一般市民も、これらの(ワクチンが)有効であるだけでなく、安全であると安心できるような方法で開発する必要がある」とポーランド博士はロイターに語った。

ホーテズ博士は、臨床試験が進められることに驚いたと言う。「モデルナ社のワクチンを投与された実験動物に免疫増強が見られたら大問題になる」と同博士は言う。

中国企業と提携して新型コロナウイルスのワクチン開発を進めている米国の免疫療法企業イノビオ・ファーマスーティカルズも、やはりワクチン増強に関する動物実験を待たずに、米国内の志願者30人を対象とした臨床試験を4月に開始したいと考えている。

イノビオのジョゼフ・キムCEOはロイターに対し、「社会が全体としてワクチン開発の加速を重視しており、臨床プロセスを遅らせたくない。できるだけ迅速にフェーズ1研究に移行しようという気持ちになっている」と語った。

イノビオでは、その後すぐに、新型コロナウィルスにより深刻な打撃を受けている中国・韓国においても人間を対象とした安全性試験を開始することを予定している。キムCEOによれば、年内にはワクチン増強の問題に対する結論が出るものと期待しているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、物価の上下いずれの乖離にも等しく対応 新金

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で大規模爆撃 死者数は38人

ワールド

シリアやレバノンとの外交樹立に関心、ゴラン高原対象

ビジネス

日産、英工場で早期退職募集 世界で2万人削減の一環
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    メーガン妃への「悪意ある中傷」を今すぐにやめなく…
  • 6
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 7
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 8
    自撮り動画を見て、体の一部に「不自然な変形」を発…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    突出した知的能力や創造性を持つ「ギフテッド」を埋…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 7
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中