最新記事

新型コロナウイルス

新型肺炎で中国の調査報道は蘇るか

2020年2月13日(木)18時00分
林毅

国務院の記者会見に参加するジャーナリスト(北京、1月26日)Thomas Peter-REUTERS

<新型肺炎報道でふたたびスポットライトを浴びる中国の調査報道。反面、従事する記者の数は近年激減しているともいわれる。社会の透明性を担保する原動力のひとつでもある調査報道は、この事件をきっかけにかつての栄光を取り戻す事ができるのか。>

米ワシントン・ポスト紙のウォーターゲート事件報道のように、雑誌や新聞などの紙媒体は長年にわたって社会不正や権力の闇を暴く調査報道の主役を担ってきた。多くのメディアがプロパガンダ機関として党・政府に組み込まれている中国でも、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群)報道では多くのメディアが様々な方法で規制や圧力をくぐり抜け、素晴らしい調査報道を行った。

しかし現在、世界のどこを見ても紙媒体はネットにあふれる無料情報の波に押し流され、経営面で苦境に立たされている。この状況は時間も手間もかかる割に直接部数に貢献することが少ない調査報道をも確実に蝕んでいる。加えて中国ではメディアへの政治的圧力が強まるばかりだ。そうした背景から近年、中国で調査報道に従事する記者は大幅に減少している、と言われている。

【参考記事】新型肺炎の真実を伝える調査報道記者は、中国にはもういない

ところが、湖北省武漢市で発生した新型肺炎の感染拡大で、数多くの調査報道記者たちが危険を顧みず現地から価値ある情報を発信し、久しぶりに存在感を示している。今回の新型肺炎をきっかけに、中国における調査報道への逆風は変わるのだろうか? 中国の調査報道で最も有名なメディア「南方週末」に13年まで記者として勤務し、現在は香港中文大学メディアコミュニケーション学部の助教を務めつつ、自らも情報発信を続ける方可成(ファン・コーチョン)に話を聞いた。

◇ ◇ ◇


──中国で調査報道に従事する記者の減少は何が原因なのか?

90年代から2010年頃までの約20年間は、中国の調査報道にとって黄金時代だったと言える。例えば03年の孫志剛事件(注:湖北省出身の若者が広州市の警察当局に浮浪者として「収容」され、施設職員らの暴力によって死亡した事件)に関する報道などが例として挙げられるだろう。特に都市報(注:都市ごとに発行されるタブロイド紙)を中心に勃興した調査報道は多くの読者をひきつけ、それが新聞社にも社会的影響力と収入増をもたらし、記者の収入も高かった。

私自身も大学でジャーナリズムを専攻していた頃から調査報道で多くのスクープを出した「南方週末」紙の報道を読み、ずっと憧れていた。大学院卒業後に幸運にもその一員になれた時には、夢がかなったとほんとうに嬉しかった。

分水嶺だった2012年

潮目が変わったのは2012年。世界的な規模で伝統メディアの読者離れとビジネスモデルの崩壊が顕著になり始めたのがこの年だ。物価は上昇し続けるのに記者の収入がそれ以降上がる事はなく、同時期のIT系の起業の盛り上がりなどもあって人材は流出していった。

fujii-chart_650.png

(出典:CNRS)
今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ時価総額1兆ドル台、約2年ぶり トランプ次期

ビジネス

トランプ氏、自身のSNS株「売却しない!」 株価1

ワールド

WTO事務局長の候補者争いならず トランプ氏の米大

ビジネス

欧州の金融機関、トランプ政権2期目での競争激化に備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「歌声が聞こえない」...ライブを台無しにする絶叫ファンはK-POPの「掛け声」に学べ
  • 2
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困惑させた行為の「意外すぎる目的」とは? 動画が話題に
  • 3
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その真相に驚愕
  • 4
    「遮熱・断熱効果が10年持続」 窓ガラス用「次世代…
  • 5
    「ハリス大敗は当然の帰結」──米左派のバーニー・サ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 7
    アメリカを「脱出」したいアメリカ人の割合が史上最…
  • 8
    トランプはウクライナを見捨てるのか── ゼレンスキー…
  • 9
    第二次トランプ政権はどこへ向かうのか?
  • 10
    トランプ「韓国の軍艦建造能力が必要」 中国との覇権…
  • 1
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウクライナ軍と北朝鮮兵が初交戦
  • 2
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 3
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄道計画が迷走中
  • 4
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…
  • 5
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その…
  • 6
    「ダンスする銀河」「宙に浮かぶ魔女の横顔」NASAが…
  • 7
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困…
  • 8
    投票日直前、トランプの選挙集会に異変! 聴衆が激…
  • 9
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 10
    米大統領選挙の「選挙人制度」は世界の笑い者── どう…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 3
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 6
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 7
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中