最新記事

中国

新型コロナウイルス肺炎、習近平の指示はなぜ遅れたのか?

2020年1月24日(金)12時00分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

1月21日になると、武漢市東西湖区市場監督管理局は「市場経営者に告ぐ」という通知を出したが、もう遅い。このページの「二」に書いてある漢字をご覧いただきたい。「食品安全法」とか「野生動物保護条例」などの文字があるのを確認することができるだろう。その項目にある「生きたまま殺す」などの文字を見ると、誠にゾッとする。

もっとゾッとする話を最後に付け加えておこう。

1月17日まで湖北省両会があったとはいえ、1月5日から19日までの空白期間がどうも気になったので、さらに詳細に調べたところ、1月21日に、武漢市で湖北省春節祝賀演芸会が開かれていたことを知った。湖北省政府や武漢市政府の上層部が全員参加したとのこと。おまけに舞台の出演者の中には新型コロナウイルス肺炎の疑いがある症状を来たしている者が数名いたという。それを押して、動きの激しい演技をさせたと中国のネットでは激しいバッシングが見られる。これだけ多くの人が武漢市の劇場に集まれば感染も広がるだろう。

それでも強行したのは、又しても繰り返すが、「新型コロナウイルス肺炎だと判明はしたが、武漢市の肺炎はすでに解決し、コントロールされているので、問題はありません」と偽装したかったものと判断される。そのため湖北省政府や武漢市政府の指導層がずらりと顔をそろえた。

しかしさすがに北京は今度は騙されず、1月23日に武漢市に対して封鎖令を発布した。武漢市民は一切武漢から外に出てはならないことになってしまったのだ。それを事前に察知した市民の中には封鎖令が発布される直前に上海などに脱出した者もいるという。その数、数千とも数万とも言われている。

注意すべきは「封鎖令」を出せるのは中央政府だけだということである。

どんなに武漢政府や湖北省政府が姑息な偽装工作を行っても、その運命は見えている。

それにしても、「北京に対する保身のためなら全世界を恐怖に巻き込んでも平気」という考え方の恐ろしさと愚かさよ。一党支配体制でピラミッド型に命令系統が徹底されているように外からは見えるかもしれないが、中央と地方の連携が如何にお粗末かということの証しの一つでもある。14億人もいれば統率に漏れが出て来ることもあろうが、中国の病根を見る思いだ。

中国のもろさは、実はこんなところにもあるのかもしれない。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

Endo_Tahara_book.jpg[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『激突!遠藤vs田原 日中と習近平国賓』(遠藤誉・田原総一朗 1月末出版、実業之日本社)、『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

この筆者の記事一覧はこちら≫

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米高官、中国レアアース規制を批判 信頼できない供給

ビジネス

AI増強へ400億ドルで企業買収、エヌビディア参画

ワールド

米韓通商協議「最終段階」、10日以内に発表の見通し

ビジネス

日銀が適切な政策進めれば、円はふさわしい水準に=米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に共通する特徴、絶対にしない「15の法則」とは?
  • 4
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    筋肉が目覚める「6つの動作」とは?...スピードを制…
  • 10
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中