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ウイグルを弾圧する習近平の父親が、少数民族への寛容を貫いていた皮肉

Liberal Father, Illiberal Son

2019年12月3日(火)18時40分
ジョセフ・トリギアン(米外交問題評議会フェロー)

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副首相も務めた彼の父・仲勲(中央)はウイグルの民族問題には寛容な姿勢で臨むべきだと強く主張し続けた Public Domain image via Wikimedia Commons

党総書記の胡耀邦(フー・ヤオパン)は、ソ連の例に倣い、新疆ウイグル自治区とチベットで少数民族を党幹部に起用すべきだと考えていた。副首相の万里(ワン・リー)は、外交と国防以外の全権限を地方に移譲すべきだと考えた。

こうしたなかで仲勲は、新疆ウイグル自治区の実際の管理を任されていた。彼は1981年、同自治区の党第1書記となった王恩茂(ワン・エンマオ)に北京から電話をかけ、カシュガルで起きた反政府デモを平和的な方法で沈静化するよう指示。大規模な弾圧は状況を悪化させるとして断固禁止した。

仲勲は1985年、宗教問題でより開かれた政策が必要な理由について、自らの考えを次のように説明している。「歴史を振り返ると、政府の厳格で柔軟性のない宗教政策が激しい弾圧につながり、望ましくない結果を生んでいる。宗教活動を政策や法の範囲内に導くことができなくなるだけでなく、むしろそれらの活動が常軌を逸したものになり、下心のある者がその状況を利用することさえ可能になる」

仲勲はリベラルだったか

仲勲は1987年1月に胡耀邦が党総書記を解任された後も、新たな民族政策に貢献した。だが彼も、この年のうちに党政治局を去っている。

その後、チベットと新疆ウイグル自治区でデモが起きたことを受け、党指導部は一時的な開放政策を「誤り」と結論付けた。いま多くの共産党員は仲勲の寛容政策を、「より開かれた政策は惨事を招く」という教訓と捉えている。

改革派として知られた仲勲だが、彼がさまざまな時期に一連の問題に対して抱いていた考え方を合わせて検証すると、中国政治では「改革派」や「保守派」といったレッテルがほとんど意味を持たないことが分かる。

例えば仲勲はその他の宗教、特にカトリックに対しては強硬姿勢を取っていた。チベットと新疆ウイグル自治区でデモが起きた後に、彼は考え方を変えたのか。いま仲勲が生きていたら、どのような政策を取るのか──そうした点は分からない。

さらに言えば、仲勲の考え方は統制のための手段としてのみ理解すべきだ。彼は政治教育や経済開発に重点を置き、諸外国による干渉を拒み、宗教組織は共産党が支配すべきだと考えていた。これは彼の「改革主義的」な思考が相対的なものとしてしか説明できないことを意味している。

ただし今回ニューヨーク・タイムズなどが報道した内部文書が示すように、中国共産党はその後、国内の少数民族に対して仲勲の時代とは大きく異なる政策を取るようになっている。いま容赦ない姿勢を見せている最高指導者の父親が、かつての柔和路線に最も関係していた人物だったとは、何という皮肉だろう。

©2019 The Diplomat

<本誌2019年12月10日号掲載>

【参考記事】TikTok美容動画に忍ばせた中国批判、運営元があっさり謝罪した理由
【参考記事】中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?

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