最新記事

NATO

NATOの「脳死」はトルコのせいではない

Don’t Blame Turkey for NATO’s Woes

2019年12月4日(水)18時55分
シナン・ユルゲン(トルコの経済外交政策研究所会長)

だがそれ以降は、アメリカを含む加盟国の国家安全保障上の優先順位の相違をNATO内で調整する作業が困難を極めている。トランプがNATOについてしばしば馬鹿げた発言を行ったため、同盟国はヨーロッパの安全保障へのアメリカの関わりを疑問視するようになっており、それが同盟の結束力と抑止力の両方を損なっている。

アメリカの安全保障の展望は、トランプが大統領に就任するより前、イラクとシリアにおけるテロ組織IS(イスラム国)の出現によっても一変した。

ISISとの戦いは、国家の安全保障機関だけでなく、米政府にとっても最優先の重要事項になった。アメリカの政策立案者は、ISISと戦うためにシリアのクルド人民兵組織 「人民防衛隊(YGP)」と戦術的な同盟を結び、それがアメリカとトルコとの二国間関係にもたらす危険性をあえて無視した。トルコ政府にとってYPGはトルコ国内でクルド民族の分離独立を要求するクルド労働者党(PKK)の分派であり、PKKと同様に安全保障上の脅威と見なしている。

このような状況下で、アメリカ政府は、政治レベルですでに合意されたトルコに関わるNATOの南部方面の防衛計画の実施を阻止しようとした。その理由は、2016年に決定されたこの計画が、トルコの正当な懸念を反映して、YPGをテロ組織と分類していたためだ。

このヨーロッパ南部方面の防衛計画はスケールが大きく、地域の不安定を招きかねない現存および潜在的なさまざまな脅威に対するNATOの対応を改善するという目的があった。YPGの問題は本質的に副次的なものであり、防衛計画の中核的要素ですらなかった。

自国の利益優先で対立

しかしアメリカは、NATOの同盟国であるトルコの利益に真っ向から反する形で自国の利益を優先し、一度は同意を与えた政治的・軍事的計画の阻止に向けて動いた。

アメリカ政府はまた、YPGをめぐる2国間の意見の不一致がより広い意味でのNATOの問題になるべきではないというトルコ側の主張を意に介さず、NATOの分裂と弱体化を招く可能性のある問題にしてしまった。

アメリカのNATOに対する非協力的な姿勢が明らかになるにつれ、トルコとの二国間関係は急速に悪化した。トルコの反体制派の聖職者フェトゥッラー・グレンがアメリカに亡命したこと、トルコがロシアとの友好関係を強化し、ロシアの最新鋭地対空ミサイルシステムS-400を購入したこと、トルコが対イラン制裁に違反したこと、そしてアメリカがYPGとのパートナー関係を続けていること、など両国それぞれが相手に不満を抱く出来事が積み重なっていった。

アメリカ政府がトルコを含む安全保障計画の実施に対する拒否権を撤回しようとしないため、トルコ政府も態度を硬化させ、バルト3国とポーランドをカバーする東部方面の防衛計画を拒否すると脅している。

トルコ政府の主張は、一国の安全保障は他国の安全保障を犠牲にすべきでないという「安全保障の不可分性」という昔ながらの見解に基づいている。NATOはそのメンバーを差別することはできないし、すべきではない。北部と東部の加盟国の安全を改善する努力は、南部と同じ程度になされるべき、というものだ。トルコのスタンスは、当然のことながら、ポーランドやエストニアなど、東ヨーロッパの国々も怒らせた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BofA、プライベートクレジットに250億ドル 米

ビジネス

IMF報道官、ドル相場「歴史的平均に近い」 25日

ビジネス

ブルー・アウルがファンド資産14億ドル売却、プライ

ワールド

ベネズエラ製油所、処理能力の35%に稼働率上昇=関
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    中道「大敗北」、最大の原因は「高市ブーム」ではなかった...繰り返される、米民主党と同じ過ち
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 5
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 6
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 7
    カンボジア詐欺工場に「人身売買」されたアフリカ人…
  • 8
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 9
    ディープフェイクを超えた「AI汚染」の脅威──中国発…
  • 10
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 8
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中