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NATOの「脳死」はトルコのせいではない

Don’t Blame Turkey for NATO’s Woes

2019年12月4日(水)18時55分
シナン・ユルゲン(トルコの経済外交政策研究所会長)

しかし、この対立はトルコとアメリカだけの問題では終わらない。それは設立70周年を祝うにあたってNATOが直面する最も重要な課題の1つ――脅威が拡散し多様化した環境で、NATOがどのように政治的結束を維持できるかという問題なのだ。

冷戦後の時代に、伝統的な武力衝突以外の脅威に対処する同盟としてNATOを再構築したことが、このジレンマを生み出した。現在、NATO各国は、暴力に転じる過激な運動、テロ、大量破壊兵器の拡散、近隣地域での国家の失敗などさまざまな脅威について、それぞれに異なる認識を抱いている。

要するに、これらの脅威への対応を、NATOが加盟国の総意を受けた統一の政策として打ち出すことが、以前よりもはるかに難しくなっているのだ。多数の小規模な安全保障の課題の組み合わせよりも、限られた数の、誰もが「存亡の危機」と認識する脅威に対する政策的合意にこぎつけるほうがはるかに簡単だった。

トルコに関わるこうした外交課題の経緯にかんがみて、NATOの首脳陣は今回の会議で、脅威に対する各国の認識の差異に前向きに取り組む必要があることに気付くはずだ。

この状況を打開する処方箋として、NATO設立の基盤である北大西洋条約の第4条に定められた「協議」の範囲と頻度を拡大することが考えられる。北大西洋条約の第4条は、NATO加盟国が大西洋の両側の国々の安全に影響を与える可能性のある出来事について意見を交換することを認めている。そうしないと、NATOがフランス大統領の素人診断よりひどい「昏睡状態」にあることを確認する羽目に陥る可能性が高くなる。

(翻訳:栗原紀子)

From Foreign Policy Magazine

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