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人工ウイルスがテロ兵器になる日

The Next Big Terrorist Threat

2019年11月20日(水)16時40分
ジョーダン・ハービンジャー(ジャーナリスト)

最悪のシナリオを防ぐ方策はあるのか。選択肢の1つは合成生物学の研究を完全に禁止することだ。しかし、ゲノム編集はキャンピングカー程度の部屋があればできる。完全な監視は不可能に近い。それに、国際社会がこの分野の研究を禁止しても、ロシアや中国、北朝鮮のような国はひそかに応用技術の開発を続けるだろう。

ワクチン「印刷」体制を

リードに言わせれば、むしろ大事なのは、人類が合成生物学の素晴らしい成果を確実に享受できる状況を生み出すことだ。そして、その成果を利用して最悪の事態に備えればいい。

リードが提案する構想は2つある。1つは、大気中の病原体を検出する装置の大規模ネットワークの構築。大気中を漂う病原体を24時間体制で監視し、そのDNA情報を瞬時に解析し、必要に応じて警告を発するシステムだ。

政府が十分な資金を出して支援すれば、こうしたシステムは向こう20年くらいで、スマートフォン並みに普及するはずだ。それで季節的なインフルエンザの蔓延を予防できれば、それだけでも十分に採算は取れる。

2つ目のアプローチは、バイオ関連の製造インフラを従来とは比較にならない規模にまで増やすことだ。危険な病原体が故意にばらまかれた場合、何カ月もかけてウイルスを調べ、ワクチンをつくり、各地へ送り出す時間的な余裕はないだろう。

そうであれば、3Dプリンターでワクチンを製造する技術を開発し、薬局や診療所でワクチンを「印刷」できるようにすればいい。これなら迅速にワクチンを投与でき、多くの命を救える。

ただし、とリードは警告する。これらの対策への投資は今すぐ始めなければならない。あと15〜20年もすれば人工的な殺人ウイルスの量産が可能になるからだ。

「今はまだ、高校生が自宅で殺人ウイルスをつくってばらまける時代ではないが」と、リードは言う。「そういう人間が生まれてくるのは、もはや時間の問題だ」

時間はあるが待ったなし。気候変動の対策と同じだ。

<本誌2019年11月26日号掲載>

【参考記事】人工合成で天然痘ウイルスを作製可能!?な研究が発表され、批判相次ぐ
【参考記事】遺伝子編集「クリスパー」かつて不可能だった10の応用事例

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