最新記事

2大レポート:遺伝子最前線

遺伝子編集「クリスパー」かつて不可能だった10の応用事例

CHANGING THE WORLD

2019年1月16日(水)12時00分
ジェシカ・ファーガー(ヘルス担当)

VCHAL/ISTOCKPHOTO

<新技術「クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)」の出現で加速するゲノム編集。この技術の応用はもうここまで進んでいる>

※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

◇ ◇ ◇

クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)がより一般的になれば、将来何が起こり得るのか。不安に思う人は多いだろうが、現実は予想以上に進んでいる。

クリスパーを使えばあらゆる生命体の遺伝情報において、DNAの断片を選択的に変更したり、遺伝子を無効化したり、遺伝子の突然変異を修正したりできる。つまり遺伝子編集によって、世界を自由に再設計することが可能になる。この技術は農業や医薬など生物科学のほぼ全ての領域を一変させ、われわれの生活のあらゆる面に影響を与えるはずだ。

科学者は既にクリスパー技術を使って、かつて不可能と思われたことを実現している。注目の10の事例を見てみると──。

(1)米シカゴ大学の研究者は、食欲を抑制するホルモンをつくるよう遺伝子編集を施した皮膚片をマウスに移植し、食欲と血糖値を抑えるのに成功した。この実験はインスリンの代替物を特定する上でも役立ちそうだ。

(2)英インペリアル・カレッジ・ロンドンではマラリアを媒介する蚊を遺伝子操作し、集団の繁殖能力を失わせた。蚊が原因となる病気の撲滅を目指すことができるだろう。

(3)米食品医薬品局(FDA)は遺伝子組み換えサケを認可している。遺伝子編集により、大西洋サケがキングサーモンのような味と食感で、早く大きく成長するようになった。

(4)中国の西北農林科技大学の科学者らは特定の遺伝子を取り除き、より毛の多いカシミヤヤギを誕生させた。

(5)米ハーバード大学の研究で、ブタ内在性レトロウイルス(PERV)を保有しないブタが誕生。ブタからヒトへの臓器移植に道を開いた。成長ホルモンの関連遺伝子を無効化した超小型ブタも生まれており、中国企業がペット販売すると発表したが、計画は中止に。

magSR190116changing-chart.png

本誌23ページより

(6)中国では、侵襲性の強い癌の多くの予備研究にクリスパーが使われている。例えば患者の血液で遺伝子変異を起こしてそれを体内に戻し、頭頸部癌の成長を抑制する研究などだ。

(7)米ラトガーズ大学の研究者はウドンコ病に耐性のあるブドウを開発。ワイン生産が増えるかもしれない。

(8)アリは鋭い嗅覚で互いに情報を共有・交換する。米ロックフェラー大学の研究者らは、嗅覚に関連する遺伝子を編集するとアリの行動が変化することを発見。脳の触覚葉と回路が十分発達せず、食料調達を含む集団の生産性も劇的に低下。アリ同士が効率的に協業できなくなるからだ。

(9)家畜の牛にとって角を切られることは大変な苦痛。畜農家にとっても費用と手間が掛かる作業だ。クリスパーで角のない牛が生まれている。

(10)マウスのDNAからHIVウイルスに関する部分を取り除く遺伝子編集に、米ピッツバーグ大学などの研究者が成功している。

<2019年1月22日号掲載>

【関連記事】クリスパー開発者独占インタビュー「生殖細胞への応用は想定内」

※2019年1月22日号「2大レポート:遺伝子最前線」特集はこちらからもお買い求めいただけます。

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「AIよ、うちの商品に注目して」、変わる

ワールド

エアバス、A320系6000機のソフト改修指示 A

ビジネス

ANA、国内線65便欠航で約9400人に影響 エア

ワールド

アングル:平等支えるノルウェー式富裕税、富豪流出で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場の全貌を米企業が「宇宙から」明らかに
  • 4
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    エプスタイン事件をどうしても隠蔽したいトランプを…
  • 10
    メーガン妃の「お尻」に手を伸ばすヘンリー王子、注…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中