最新記事

人体

ヒトの体内の「粘液」の役割が明らかに

2019年10月17日(木)18時40分
松岡由希子

ネバネバする「粘液」の役割とは...... heidijpix -iStock

<ヒトの体内にある粘液の役割や構造は完全には解明されていなかったが......>

消化器官や呼吸器官など、ヒトの体内には、糖タンパク質のひとつ「ムチン」を主成分とする「粘液」があり、食物を消化管内で通過させたり、呼吸器官から異物を排泄したり、精子が子宮頸部を通過するのを助ける役割を担っている。しかし、その役割や構造については、まだ完全に解明されていない。

病原体の行動を制御し、無害化させる

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のカトリーナ・リベック教授らの研究チームは、粘液に含まれる分岐状糖分子「グリカン(糖鎖)」が病原体の行動を制御し、無害化させる役割を担っていることを明らかにした。一連の研究成果は、2019年10月14日、学術雑誌「ネイチャー・マイクロバイオロジー」で公開されている。

粘液では、グリカンがムチンに付着し、ボトルブラシのような構造を形成している。研究チームは「グリカンが病原体の無害化に重要な役割を果たしている」との仮説を立て、グリカンと緑膿菌との相互作用を解明するべく、グリカンだけを分離して緑膿菌にさらす実験を行った。

緑膿菌は、地球に広く分布する常在菌で、健常者が感染しても発病させることはほとんどないが、免疫力の低下した者には日和見感染症のひとつ「緑膿菌感染症」を引き起こす。

実験では、グリカンが緑膿菌にさらされると、緑膿菌の行動は大きく変わり、毒性を産生せず、宿主細胞に付着したり、死滅させたり、細胞間でコミュニケーションするために不可欠な遺伝子を発現することもなくなり、宿主にとって害が少なくなった。

また、火傷をしたブタを使って、緑膿菌に感染した患部をムチンやムチンと結合したグリカンで治療する実験を行ったところ、細菌の増殖を抑えることができた。

ほかの病原菌の抑制作用などを解明していく

リベック教授は、このような実験結果をふまえ、「我々はこれまで、ムチンが様々な病原体の行動変化をもたらしているのではないかとみてきたが、その役割を担う分子メカニズムとしてグリカンを特定した」と述べている。研究チームでは一連の実験に際し、すでに膨大なグリカンを収集しており、今後、グリカンそれぞれの作用を詳しく検証していく方針だ。

また、レンサ球菌や真菌の一種「カンジタ・アルビカンス」など、緑膿菌以外の病原菌についても、グリカンの抑制作用などを解明していくという。近年、微生物を殺す抗生物質が効かないスーパーバグが問題となっているが、微生物を殺すのではなく病原体の行動を制御するというアプローチが感染症に対して有効な可能性があるという。

スウェーデンのヨーテボリ大学のグンナー・ハンソン教授は、「細菌性バイオフィルムの形成が、粘液、とりわけグリカンによって阻害されることを示すものとして、この研究結果は意義の高いものだ」と評価している。

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一段の利下げ余地ある=周前総裁

ビジネス

アングル:個人消費堅調も一般消費財の株価さえず、原

ワールド

民主党討論会、10候補は大統領の弾劾調査支持では一

ビジネス

日経平均は3日続落、米中協議に不透明感 日銀ETF

MAGAZINE

特集:プラスチック・クライシス

2019-11・26号(11/19発売)

便利さばかりを追い求める人類が排出してきたプラスチックごみの「復讐劇」が始まった

人気ランキング

  • 1

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たGSOMIA問題の本質

  • 2

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判の大合唱

  • 3

    中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止めないのか?

  • 4

    米韓、在韓米軍駐留費巡る協議わずか1時間で決裂 今…

  • 5

    表紙も偽物だった......韓国系アメリカ人高官が驚く…

  • 6

    野党の「桜を見る会」追及にはなぜ迫力がないのか

  • 7

    余命わずかな科学者が世界初の完全サイボーグに!?

  • 8

    香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っ…

  • 9

    ソルリの死を無駄にはしない 韓国に拡がる悪質コメ…

  • 10

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 1

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 2

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たGSOMIA問題の本質

  • 3

    トランプが日本に突き付けた「思いやり予算」4倍の請求書

  • 4

    アメリカが繰り返し「ウソ」を指摘......文在寅直轄…

  • 5

    日本のノーベル賞受賞に思う、日本と韓国の教育の違い

  • 6

    「愚かな決定」「偏狭なミス」米専門家らが韓国批判…

  • 7

    ペットに共食いさせても懲りない飼い主──凄惨な退去…

  • 8

    中国は「ウイグル人絶滅計画」やり放題。なぜ誰も止…

  • 9

    香港の完全支配を目指す中国を、破滅的な展開が待っ…

  • 10

    「安い国」になった日本の現実は、日本人にとって幸…

  • 1

    マクドナルドのハロウィン飾りに私刑のモチーフ?

  • 2

    「アメリカは韓国の味方をしない」日韓対立で米高官が圧迫

  • 3

    GSOMIA失効と韓国の「右往左往」

  • 4

    意識がある? 培養された「ミニ脳」はすでに倫理の…

  • 5

    「韓国は腹立ちまぎれに自害した」アメリカから見たG…

  • 6

    インドネシア、巨大ヘビから妻救出した夫、ブタ丸呑み…

  • 7

    トランプが日本に突き付けた「思いやり予算」4倍の請…

  • 8

    「武蔵小杉ざまあ」「ホームレス受け入れ拒否」に見る深…

  • 9

    アメリカが繰り返し「ウソ」を指摘......文在寅直轄…

  • 10

    中国人女性と日本人の初老男性はホテルの客室階に消…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 資産運用特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!

STORIES ARCHIVE

  • 2019年11月
  • 2019年10月
  • 2019年9月
  • 2019年8月
  • 2019年7月
  • 2019年6月