最新記事

嫌韓の心理学

日本に巣食う「嫌韓」の正体

THE MEDIA'S FAULT?

2019年10月10日(木)17時30分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

無論、彼らが何かを機に行動に出る可能性はあるが、現状は木村の仮説どおり、それらは感情の発露という要素が強い。言い換えれば「ふわっとした嫌韓」だ。何かにつけ「日本を批判してくる韓国」への憤りが、ネットに蔓延している。

彼らの憤りを利用して数字につなげようとすれば、別の立場の憤りに火を付け、炎上する。インターネット全盛の時代にあって、韓国報道は新しい姿を模索する時期に差し掛かっている。

「遅れた国」から「ライバル」へ

「韓国に対する目線はかつてとは変わっている」──。こう語るのは、全国紙の元ソウル特派員である。日韓関係が過去最悪と言ってもいいほどこじれ、かつインターネット全盛の時代に、どう報じていくかを最前線から考えている1人だ。彼が特に大事だと考えているのが「韓国へのまなざし」だ。

「1つは古い世代の上から目線。古い世代というのは戦後、経済的に貧しかった韓国を知っている世代のこと。右派も左派も『遅れている韓国』を前提としていて、『日本を批判するのが気に食わない』となれば嫌韓、『かわいそうな被害者の言うことを聞いてあげよう』が親韓という構図になるのだが、今は前提が変わっている」

IMFが出している購買力平価で見れば、ここ30年、つまり韓国が民主化して冷戦が終結して以降、韓国は急速に経済力を増し、ほぼ日本と変わらない数値になっている。これが「新しい世代」=経済成長してからの韓国しか知らない世代の共通認識になる。

「こうなると、主要産業が重なる国際市場で競い合う『ライバル』という意識が強まってくる。韓国側も経済力が付いているから、以前よりも強気で日本に主張できるようになった。文在寅大統領が『日本にもう負けない』と言えるのも経済力が背景にある。こうした発言に負けたくないというのが新しい世代の『嫌韓』の背景にあるのではないか」

彼は、世代交代で「嫌韓」問題が解決するとは思えないと言う。ポップカルチャーと政治は別のシステムであり、「政治や経済のライバル意識は常に新しい対立の温床になる」からだ。そして、日韓には歴史認識問題という埋め難い溝が横たわる。韓国の経済成長という新しい局面においても、古い世代と新しい世代は「ふわっとした嫌韓」を共有できる。

ある全国紙の現役ソウル特派員はその見方に賛同する。

「日本では、自分たちはかつて宗主国で過去に韓国を植民地にしていたという認識も薄い。贖罪意識もないだろう。韓国を知るためには歴史を知ることが不可欠だが、知ろうという意識も薄い」

火種はくすぶり続け、現代のライバル意識と相まって、お互いのナショナリズムに火を付ける。日韓関係がこじれた原因になった元徴用工問題も、重要なのは歴史認識の問題である以上に、歴史をカードにした現在の政治問題になっているということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中