最新記事

人体

ヒトの硬質化も凄い......「歯のエナメル質はなぜ硬いのか」解明される

2019年10月2日(水)17時45分
松岡由希子

ヒトの体の中で最も硬い組織、エナメル質の謎が解明される...... ChrisChrisW-iStock

<歯がこれほど丈夫なのはなぜか。エナメル質のユニークな構造にその秘密が潜んでいることが明らかとなった......>

歯冠の最表層にあるエナメル質はヒトの体の中で最も硬い組織で、モース硬度でダイヤモンドを10とした時の6-7の値で、水晶くらいの硬さがある。また、歯のエナメル質は、骨のように見えるが、生体組織ではなく、自己修復する能力もない。

そして、私たちは日々噛むたびにエナメル質に圧力をかけているが、生涯にわたって丈夫に保たれる。では、エナメル質がこれほど丈夫なのはなぜなのだろうか。エナメル質のユニークな構造にその秘密が潜んでいることが明らかとなった。

エナメル質結晶はきれいに整列していると考えられてきたが......

米ウィスコンシン大学マディソン校のプーパ・ギルバート教授らの研究チームは、先進的な画像技術を用いてヒトの歯のエナメル質結晶の構造を解明し、2019年9月26日、オープンアクセス誌「ネイチャーコミュニケーションズ」でその研究成果を発表した。これまでエナメル質結晶はきれいに整列していると考えられてきたが、この研究成果では、結晶に配向不整が認められた。

歯のエナメル質は、リン酸カルシウムの一種「ハイドロキシアパタイト」の細長いナノ結晶で構成されている。その小ささゆえ、これまでその構造を観察することはできなかったが、ギルバート教授は、自身が2012年に開発した画像技術「偏波依存イメージングコントラスト(PIC)マッピング」を用い、ナノ結晶の方向をビジュアル化することに成功した。

012-tooth-enamel-crystals-1.jpg

歯のエナメル質のPICマッピング Pupa Gilbert

エナメル質では「ハイドロキシアパタイト」のナノ結晶が「エナメル小柱」と「小柱間エナメル質(小柱間質)」として形成されるが、研究チームは、隣接し合うナノ結晶の間の結晶方位が異なることに気づいた。結晶方位差は1度から30度までであったという。

エナメル質の結晶方位差が重要な役割を果たしている

研究チームは、「隣接し合うエナメル質結晶の結晶方位差がエナメル質の強靱さにつながっているのではないか」との仮説のもと、噛むときに生じる圧力をコンピュータモデル化し、エナメル質の結晶構造を通じて亀裂がどのように伝播するか、シミュレーションした。その結果、結晶の方向が完全に揃っていると亀裂は界面をまっすぐに伝播し、約45度の結晶方位差がある場合も同様に亀裂がまっすぐに伝播した一方、結晶方位差を小さくすると亀裂がそれた。

Tooth enamel simulation

研究チームでは「エナメル質を丈夫にするメカニズムにおいて、エナメル質の結晶方位差が重要な役割を果たしている」と結論づけるとともに「その効果を最大化するうえで、1度から30度までの結晶方位差が最適なポイントなのかもしれない」と指摘している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中