最新記事

食糧

宇宙空間で培養ステーキ肉の生成に成功......その目的は宇宙だけじゃなかった

2019年10月10日(木)18時00分
松岡由希子

土地や水資源に依存せず、食用肉を生産する...... alephfarms

<宇宙で培養肉を生成することに世界で初めて成功。土地や水資源に依存せず、微小重力状態でも適用可能であることを示す成果として、注目を集めている......>

細胞培養肉の開発に取り組むイスラエルのスタートアップ企業「アレフ・ファームズ」は、地球から339キロメートル離れた国際宇宙ステーション(ISS)において、露企業「3Dバイオプリティング・ソリューションズ」の3Dバイオプリンターを用い、培養肉を生成することに世界で初めて成功した。

土地や水資源に依存せず、屠殺せずに食用肉を生産する新たな手法が、微小重力状態でも適用可能であることを示す成果として、注目を集めている。

matuoka1010b.jpg3Dバイオプリティング・ソリューションズの3Dバイオプリンター

世界で初めて細胞培養肉によるステーキの生成に成功していた

アレフ・ファームズでは、ウシの体内で起こる筋肉組織の再生プロセスを模倣した細胞培養肉の生成技術を開発している。2018年12月には、世界で初めて細胞培養肉によるステーキの生成に成功。動物細胞から複数の種類の細胞を培養し、三次元に成型することで、食肉と同じ見た目や味、食感が再現された"肉"が生成できる。

一般に、牛肉1キロを生産するためには1万リットルから1万5000リットルの水が必要とされているが、培養肉の生産に要する水や土地は、従来の畜産に比べて10分の1程度だという。

今回の国際宇宙ステーションでの実験では、ウシの細胞と培地を培養機器に入れ、「ソユーズMS-15宇宙船」にこれを積み込んだ。「ソユーズMS-15宇宙船」は、2019年9月25日、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から国際宇宙ステーションのロシアセグメントに向けて離陸。国際宇宙ステーションに到着後、ロシアの宇宙飛行士が「3Dバイオプリティング・ソリューションズ」の3Dバイオプリンターに培養した細胞を入れ、筋肉組織に成型した。国際宇宙ステーションで成型された培養肉のサンプルは10月3日、無事、地上に戻っている。

アレフ・ファームズは、この実験の目的の一つを、気候変動の中での食糧安全保障の必要性に迫られている今、水や土地が少ない環境でも肉を生成できることを示すことで、地球上の天然資源を節約しながら多くの食料を生産するための直接的な試み、としている。

NASAはロメインレタスの栽培に成功している

いっぽう、宇宙空間で食料を生産する試みは、すでにいくつか見られる。2015年8月には、国際宇宙ステーションでロメインレタスの栽培に成功した。アメリカ航空宇宙局(NASA)では、現在、宇宙空間の微小重力状態で作物を栽培する研究プロジェクトに取り組んでおり、将来的には、トマトやパプリカ、ベリー、豆などの栽培も視野に入れている。

Space Station Live: Lettuce Look at Veggie


野菜だけでなく、培養肉が宇宙空間で生産できるようになれば、深宇宙探査や月・火星への入植において、貴重なタンパク源の確保に役立ちそうだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で

ビジネス

NY外為市場=円急伸、財務相が介入示唆 NY連銀総

ワールド

トランプ氏、マムダニ次期NY市長と初会談 「多くの
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワイトカラー」は大量に人余り...変わる日本の職業選択
  • 4
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 5
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    ロシアのウクライナ侵攻、「地球規模の被害」を生ん…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中