最新記事

ブレグジット

イギリスが強硬離脱すれば、南北アイルランドは統合へ向かう

Will Brexit Be the End of the United Kingdom?

2019年8月13日(火)16時25分
ジョナサン・ゴーベット(アイルランド在住ジャーナリスト)

一方、南北アイルランドが統合されたら厳格なカトリック教会の支配下に置かれるというプロテスタント系住民の昔ながらの懸念は、南の社会の劇的な変化によって薄らいでいる。カトリックのアイルランドは2015年に同性婚を合法化、昨年には中絶も自由化し、今や北よりも寛容な社会になっている。「今のアイルランドは近代的な多元主義の民主国家だ」とトンジは言う。

北の世論は「EU残留」

人口動態の問題もある。かつての北アイルランドでは親英派のプロテスタントが大半を占めていたが、今は違う。親アイルランドのカトリック教徒の人口がプロテスタントと同じレベルに近づいている。

EU離脱の是非を問う2016年の国民投票では、北アイルランドの親英派の3分の2が離脱を支持する一方、親アイルランド派の約85%はEU残留に票を投じた。結果、北アイルランドに限れば「残留派」が多数を占めた。

それでも「イングランド人の票で離脱が決まった」と言うのは、シンクタンク「変わりゆくヨーロッパのイギリス」のニコラ・マキューエン。北アイルランドの人口はイギリス全体の3%にすぎないが、イングランドの人口はイギリス全体の84%。数では勝てない。

ブレグジットが決まった時点で、1998年の和平合意の理念は破棄されたに等しい。マキューエンは言う。「北アイルランドの詩人ジョン・ヒューイットの言葉を借りるなら、『私はアルスターの男でアイルランド人でイギリス人、そしてヨーロッパ人だ。どれか1つでも欠ければ私は否定される』のだ。ところがブレグジットは、私たちのこうしたアイデンティティーを突き崩す。おまえはアイルランド人でもヨーロッパ人でもあり得ないと宣告されるに等しい」

そして経済の問題がある。北アイルランド経済省の7月の報告によれば、イギリスの合意なきEU離脱は「直ちに極めて深刻な影響」をもたらす。人口180万人の北アイルランドで約4万人分の雇用が失われかねないという。

「あらゆる経済指標が既に下降している。どこまで下がるか分からない」と、ベルファストにあるネビン経済研究所のポール・マクフリンも言う。ちなみにブレグジットの国民投票以来、北アイルランドの公用通貨である英国ポンドはユーロに対して15%、米ドルに対して17%も下落している。

南北の統合を求める声

南側にも影響はある。アイルランドのサイモン・コベニー外相は7月、合意なき離脱なら5万ないし5万5000人分の雇用が犠牲になると述べた。GDPも大幅に落ち込む可能性があり、合意なき離脱は「あらゆる面で」経済に「深刻な影響」をもたらすという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国こそが「真の脅威」、台湾が中国外相のミュンヘン

ワールド

米中「デカップリング論」に警鐘、中国外相がミュンヘ

ビジネス

ウォルマート決算や経済指標に注目、「AIの負の影響

ワールド

ドバイ港湾DPワールドのトップ辞任、「エプスタイン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活動する動画に世界中のネット民から賞賛の声
  • 2
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    それで街を歩いて大丈夫? 米モデル、「目のやり場に…
  • 6
    世界市場3.8兆円、日本アニメは転換点へ――成長を支え…
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 9
    反ワクチン政策が人命を奪い始めた
  • 10
    フロリダのディズニーを敬遠する動きが拡大、なぜ? …
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 7
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 8
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 9
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 10
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中