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マクロスコープ:政府、少額貨物の消費免税廃止を検討 「アンフェア解消を」

2025年07月07日(月)13時34分

 7月7日、政府が来年度の税制改正に向け、海外から届く少額貨物に対する消費税の免税制度を廃止する方向で検討していることがわかった。写真は2017年3月、都内の港で撮影(2025年 ロイター/Issei Kato)

Tamiyuki Kihara

[東京 7日 ロイター] - 政府が来年度の税制改正に向け、海外から届く少額貨物に対する消費税の免税制度を廃止する方向で検討していることがわかった。国境を越える電子商取引(越境EC)の普及に伴い少額貨物の輸入件数が爆発的に伸び、国内事業者との価格競争に影響を与えているためだ。

日本での越境EC市場は、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大を機に急伸したと言われる。小売店ではなく非接触での物品購入を希望する消費者が増えたのが主因だ。23年7月に参入した「Temu(テム)」をはじめ「SHEIN(シーイン)」など、低価格を売りにする中国系Eコマース大手の存在感が大きい。

EC事業者の「武器」の一つが、日本の輸入税制だ。現在、日本向けの輸入品は、課税価格1万円以下の少額貨物について一部の品目を除き消費税と関税が免除されている。

財務省の資料によると、消費税が免税される少額貨物の件数は20年の5402万件から、24年は1億6966万件に急増している。輸入金額も20年の1252億円から24年は4258億円に伸びた。免税制度を廃止して一律10%の消費税を課せば、400億円以上の税収になる計算だ。

経済産業省の資料によれば、世界の越境ECの市場規模は、21年の7850億ドルから10年後には約10倍の7兆9380億ドルにまで拡大するとの予測もある。

こうした現状は、国内事業者に影を落とす。消費税を支払って物品を大量に輸入する事業者に対し、製造コストの安い国からダイレクトに輸入する越境EC事業者は、それだけ低価格を実現できるからだ。

政府は関税実務の煩雑化を避けるためなどとして免税制度を継続しているが、ここまで規模が大きくなると放置するわけにもいかない、と制度廃止に乗り出した形だ。

政府関係者は「税が免除される時点で、国内事業者はフェアな競争ができなくなってしまっている」と説明。「公平な価格競争を促す意味でも免税制度の見直しが必要になる」との認識を示した。今秋にも始まる与党税制調査会に、制度廃止の議論を持ち込みたい意向だ。

欧米ではすでに少額貨物への対策が強化され、優遇税制の廃止は国際的な潮流とも言える。5月に開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも議論され、声明には「我々の経済に分散的な形で輸送される国際的な少額貨物の大幅な増加、及びこれが税関管理や関税及び租税の徴収インフラを圧倒し、悪用する可能性があると認識する」などと盛り込まれた。

一方、制度廃止は消費者にとっては「増税」とも言える。20日投開票の参院選では減税の可否が大きな争点となっており、選挙結果次第では消費減税やガソリン暫定税率廃止を求める声が過熱しかねない。選挙後の与党税調の議論は見通せない部分もある。

専門家はどうみているのか。

SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、「国内消費全体から見れば少額貨物の輸入規模は小さく、仮に免税制度が廃止されたとしても消費全体への影響は限定的だ」としたうえで、「低価格という越境ECのメリットが薄れれば、利用者が国内の小売店に回帰するかもしれない。小売業にとっては利益押し上げ効果が出てくる可能性はある」と話す。

(鬼原民幸 グラフィックス作成:照井裕子 編集:橋本浩)

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