最新記事

ブレグジット

イギリスが強硬離脱すれば、南北アイルランドは統合へ向かう

Will Brexit Be the End of the United Kingdom?

2019年8月13日(火)16時25分
ジョナサン・ゴーベット(アイルランド在住ジャーナリスト)

magw190813_Ireland.jpg

国境の建造物に描かれた「ハードボーダー反対」の文字(北アイルランドの国境の村ジョーンズボロー) CLODAGH KILCOYNE-REUTERS

こうした論争は、今や親英派か親アイルランド派かという従来の対立軸を超えて広がっている。穏健な親英派を代表するアルスター統一党(UUP)の前党首マイク・ネスビットでさえ「親英派住民の多くが、南北統合でEUに残るべきか、EUを離脱してイギリスに残るべきかで悩んでいる」と語る。

アイルランドの南北統合というテーマは、ブレグジットをめぐる大混乱がもたらした予期せぬ副産物と言えそうだ。

北部のアルスター6州(英領)と南部26州を隔てる国境は常に争いの種だった。1921年に引かれた境界線は、もともと「国境」ではなく、イギリスの自治領を分かつ境界だった。

だから敵の襲撃に備える防衛線ではなく、地元の領主が持つ土地の境界線をなぞっただけ。結果、北はイギリスに忠誠を誓うプロテスタントで自分はイギリス人だと思う人の土地となり、南はカトリックで自分はアイルランド人だと思う人の土地となった。

当然のことながら、南にいるアイルランド人の多くはこの分割を受け入れていない。北にも少数派ながら自分はアイルランド人だと信じるカトリック教徒がいるが、彼らは多数派の親英プロテスタントから無慈悲な差別を受けることになった。

紛争は1998年に、いわゆるベルファスト合意で終結を迎えた。この合意にはイギリス政府とアイルランド政府、そして現地のプロテスタント系政党とカトリック系政党の大半が署名し、南北アイルランドの国民投票によって承認された。

ネスビットによれば、この合意の特筆すべき点は北アイルランド住民に、自身の帰属を選ぶ自由を認めた点にある。そこには「イギリス人でもアイルランド人でも、その両方でもよく、そこには何の上下関係も存在しない」と記されていた。

その後の歳月において、この寛容さは長年にわたる党派的・民族的な分断を癒やすのに役立った。英リバプール大学教授で両国関係に詳しいジョン・トンジによれば、今年に入ってからの世論調査では「北アイルランド住民の50%前後が、自分は親英でも親アイルランドでもないと答えている」。この数字は1998年の和平合意時点では約33%だったし、紛争の続いていた時期にはもっと低かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏のMRI検査は「予防的」、心血管系は良好

ワールド

米イスラエル首脳が電話会談、ガザ非武装化や国交正常

ビジネス

米ISM製造業景気指数、11月は48.2に低下 9

ワールド

ウクライナ、和平案巡り欧州と協議 ゼレンスキー氏が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯終了、戦争で観光業打撃、福祉費用が削減へ
  • 2
    【クイズ】1位は北海道で圧倒的...日本で2番目に「カニの漁獲量」が多い県は?
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 5
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 6
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    600人超死亡、400万人超が被災...東南アジアの豪雨の…
  • 9
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中