最新記事

コロンビア大学特別講義

韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち

2019年8月7日(水)18時55分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

グラック教授 そうです。オランダ人女性の中には白人もいたからです。また、日本では「慰安婦が存在した」というのは終戦直後の時点では秘密でもなんでもなく、一般的に知られている事実でした。1947年には田村泰次郎による慰安婦についての短編『春婦伝』が出版されていましたし、慰安所という言葉は知られていて、1960年代には日本の国会で戦傷病者戦没者遺族等援護法(1952年制定)に関連して元日本人慰安婦について触れられてもいました。

では、みんなが知っていた慰安婦という存在が、どのようにして戦争の物語の中に入ってきたのか。慰安婦とは、どのような人たちだったでしょうか。皆さんが持っているイメージを教えてください。

ダイスケ 若い女性でしょうか。

グラック教授 とても若い女性たちでした。13歳や14歳もいました。ほかには?

数人 貧しい。

トム 田舎に住んでいる?

グラック教授 そうですね。若い女性で、貧しい人が多く、田舎出身の人もいました。では、1990年代にはこうした慰安婦たちはどうなっていましたか。

ジヒョン とても年を取っていました。

グラック教授 とても年を取り、貧しい人もいて、アジア諸国に散らばっていました。そんな彼女たちが「運動」を起こせるでしょうか。元慰安婦がどのような人たちかを想像すると、無力で、ほかの元慰安婦と直接的な関わり合いがない場合が多いです。

ではそんな彼女たちが、なぜ現在の私たちの記憶の中に入ってきたのか。前回の話の「記憶の作用」について思い出してみてください。四つあった「記憶の領域」、すなわちオフィシャルな領域、民間・大衆文化の領域、個人の記憶、メタ・メモリー、この中で慰安婦が記憶として姿を現した領域とはどこだと思いますか。

誰が記憶に変化を起こしたか

クリス ソウルにある日本大使館でしょうか。

グラック教授 それは後になってからですね。

ジヒョン 元慰安婦たちの証言を取り始めた学者がいました。

グラック教授 韓国人の学者ですね。名前は覚えていますか?

ジヒョン 名前は覚えていません。

グラック教授 1980年代後半ですね。例えば梨花女子大学校の尹貞玉がセックスツーリズムの問題に関連して、慰安婦についての研究を発表しました。

スペンサー 日本の学者もその研究をしていたと思います。ヨシミが重大な役割を果たしたことは知っています。

グラック教授 歴史学者である吉見義明が慰安所への軍関与を示す資料を発見しましたが、彼はなぜその資料を探しに行ったのでしょうか。

サトシ 河野談話がきっかけだったかもしれません。

グラック教授 面白い視点ですが、少し違います。1991年に韓国の元慰安婦3人が日本政府に補償を求めて提訴したことを受けて、1992年に吉見が資料を発見し、翌1993年に自民党の河野洋平(内閣官房長官)が旧日本軍の直接的・間接的関与を認めた上で謝罪と反省を表明したという流れです。

いわゆる「河野談話」はそれ以来、大きな論争を呼んできましたが、なぜ彼はこうした談話を発表したのでしょうか。 自民党が慰安婦問題についてどうしても謝罪したかった、ということではないでしょう。何があったのですか。前回の内容から、記憶に変化を起こすのは誰だったでしょうか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル議会、ヨルダン川西岸併合に向けた法案を承

ワールド

米航空管制官約6万人の無給勤務続く、長引く政府閉鎖

ワールド

米中会談の余地あり、USTR代表 レアアース規制巡

ワールド

ICJ、イスラエルにガザ人道義務順守を勧告 イスラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺している動物は?
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 6
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 9
    国立大卒業生の外資への就職、その背景にある日本の…
  • 10
    やっぱり王様になりたい!ホワイトハウスの一部を破…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 6
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中