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コロンビア大学特別講義

韓国政府が無視していた慰安婦問題を顕在化させたのは「記憶の活動家」たち

2019年8月7日(水)18時55分
キャロル・グラック(米コロンビア大学教授)

クリス 政治家ですか?

グラック教授 慰安婦の場合は、違います。韓国政府は初め、慰安婦問題を無視しようとした、という話が先ほど出ていましたね。慰安婦が人々の共通の記憶に入ってくる前の1990年代初めにさかのぼってみましょう。慰安婦を「問題化」しようとしていたのは、日本政府や韓国政府だったでしょうか。

コウヘイ メディアでしょうか。新聞とか?

グラック教授 メディアは、起きたことを積極的に報じてはいました。では、報じられるような行動に出ていたのは誰だったでしょうか。

スコット 利益団体ですか?

グラック教授 そうです。そういったグループを何と呼んでいましたか?

数人 「記憶の活動家」

グラック教授 そのとおり。民間の領域に属する、いい意味での、記憶の活動家ですね。特に1991年に元慰安婦3人が訴訟を起こした後に運動が活発化して、慰安婦が「問題」化したのです。慰安婦問題を顕在化させようとしたのはどのような人たちでしたか。

ダイスケ 人権活動家ですか。

グラック教授 人権活動家もそうですね。ほかには?

トム フェミニスト?

グラック教授 はい。第二波フェミニズムではなく、その後である1990年代のフェミニズムです。1995年に北京で国連主催の第4回世界女性会議が開かれ、有名なスピーチで「人権とは女性の権利であり、女性の権利とは人権なのです」と語られたように、この頃には人権としての女性の権利がさまざまな枠組みで大きく取り上げられるようになっていました。

戦後50周年の1995年には慰安婦が政治問題化しており、北京では女性の権利と結び付けられることになりました。では、人権活動家やフェミニストとはどのような立場の人たちでしたか。

ヒロミ 人権を侵害された人たちの家族でしょうか。

グラック教授 そうではありません。実は、NGO(非政府組織)だったのです。グローバル化が進展した1990年代には国際的な市民ネットワークが広がり、いわゆる「グローバル市民社会」が拡大し続けていました。1990年代の韓国で、元慰安婦を支援しようとした記憶の活動家とはどのような人たちだったか分かりますか。韓国の人たちが、日本について考えたときに思い浮かべたことは何でしょう。

クリス 植民地支配でしょうか。

グラック教授 そうですね。韓国にとっては、日本に植民地にされていたという背景が重要です。韓国のある元慰安婦の支援団体の名前は「韓国挺身隊問題対策協議会」と言います。挺身隊という言葉は「日本統治下で強制労働させられた」という意味合いが強いです。つまり、韓国では植民地支配という視点からも慰安婦問題の活動が行われていました。

日本では、1998年に「『戦争と女性への暴力』日本ネットワーク」という団体を設立した松井やよりという女性が慰安婦問題に取り組んでいましたが、彼女たちの活動は、植民地支配というより女性に対する暴力というフェミニズムの視点に基づいていると言えそうです。では、1990年代から北米で慰安婦を支援している、とても影響力のある記憶の活動家は誰でしょう。

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