実写版『空母いぶき』をおススメできないこれだけの理由

2019年6月6日(木)20時40分
古谷経衡(文筆家)

4】散漫な構成と陳腐な演出

原作からの改変点はなにもこれだけではない。映画版は、大まかにいって以下4つの視点から描かれる。

1)カレドルフの機動艦隊や航空機などと直接戦闘を交える『空母いぶき』の艦長(第5護衛隊群作戦司令)ら

2)東京にある日本政府中枢(佐藤浩市氏演じる垂水総理ら)

3)なぜか『空母いぶき』に同乗することになる記者2名

4)コンビニエンスストアの店長と店員

であるが、1)と2)はともかく、3)と4)に関してはこの視点の挿入が劇中の劇的盛り上がりを阻害するどころか、その関係性さえ映画の中で合理的説明がなされていない。

3)の、なぜか『空母いぶき』に同乗することになる記者2名は、大手新聞社の男性記者とネットニュース会社の女性記者なのだが、筆者は鑑賞後にパンフレットで確認するまで、この両者の関係性が全く分からなかった。それぐらい必然性に欠ける唐突な設定である。要するに、劇中に「戦闘に関与しない」鑑賞者目線の第三者を入れたいという意図なのだろうが、その意図は全く伝わってこないし、失敗している。

そして4)の、劇中でしばしば挿入されるコンビニエンスストアの店長とその店員のシークエンスに関しては、そもそも何ら脈絡が存在せず、なぜコンビニエンスストアの模様が緊張感の高まる「はず」の戦闘シーンのシークエンスの中や前後にいちいち挿入されるのか、理解に苦しむ。

映画版の監督は、恐らくこの4)の視点を挿入することによって映画版に「笑い」を含ませたいのだろうが、映画全体の構成とあまりにもアンバランスかつ無思慮な演出なので、「弛緩と緊張」という映画全体における劇的効果の役割にさえ到達しておらず、ただただ映画全体のクオリティを低下ならしめているのである(ただし、この部分は、前述した2019年5月25日号における『ビッグコミック』誌上で『空母いぶき 第0話』として漫画化されているが、正直後付けであり、付け焼刃的である)。

以上、ざっと俯瞰しただけでも、原作と映画版の差違はあまりにも大きく、これを以て私は、実写版『空母いぶき』は原作『空母いぶき』とは別個の作品であると断定せざるを得ない。映画版の「原作表示」は間違いなくかわぐちかいじ先生だが、筆者はこの事実を個人的に認めたくない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バングラで暴動、撃たれた学生デモ指導者死亡受け 選

ワールド

サウジ原油輸出、10月は2年半ぶり高水準 生産量も

ワールド

豪政府が銃買い取り開始へ、乱射事件受け 現場で追悼

ビジネス

英中銀、5対4の僅差で0.25%利下げ決定 今後の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末路が発覚...プーチンは保護したのにこの仕打ち
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    円安と円高、日本経済に有利なのはどっち?
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 9
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中