最新記事

英政治

ブレグジットを迷走させる、離脱強硬派の「メイ降ろし」と愚かな誤算

Brexiteers Never Wanted Brexit To Begin With

2019年3月26日(火)15時20分
スティーブン・パドゥアノ(ジャーナリスト)

メイの側近らは、政権が5月28日まで持てば、一定の成功を収めた首相として歴史に名を残せると考えているようだ。この日を過ぎれば、労働党の最後の首相ゴードン・ブラウンの任期を超えることができるからだ。

しかしそこに至るまで、とりわけ今後2~3週間は、メイが政権を維持するのは非常に難しくなるだろう。ERGの中心的存在であるボリス・ジョンソン前外相は、首相の座を誰よりも虎視眈々と狙ってきた。ジョンソンは12日、メイの離脱案を厳しく批判して「メイ降ろし」に力を入れることこそが、後継者争いに勝利するカギだと考えていることを露呈した。

一方、こうした党内の権力争いに興味のない議員たちは、メイのやり方に純粋に政治的な疑問を感じている。

ブレグジットはEUに残留するか離脱するかという、比較的単純な白黒の問題であるにもかかわらず、メイは離脱にも「ハードブレグジット」と「ソフトブレグジット」があるとして、灰色の領域をつくり出した。そして党内の離脱強硬派につぶされると分かっているのに、ソフトブレグジットを推してきた。

さらにメイは単独プレーを好み、EUとの交渉にも1人で乗り込み、閣僚たちを遠ざけ、党内の一般議員を無視してきた。だから彼女は、自分がまとめてきた離脱案によって、イギリスは間違いなくEUから「解放される」ことを党内に説得できなかったのだ。

今やメイの支持率は30%以下に落ち込み、与党内の議員にとって、彼女への支持を表明することは自らの政治生命を危うくしかねなくなった。だから、メイ自身ブレグジットを支持しており、ブレグジットを成功させることに首相の座と名声が懸かっているにもかかわらず、ブレグジット支持者の間で彼女は正当性を失ってしまった。

実際、メイに対する非難(主にアイルランド国境問題に関する不十分な説明が原因だ)は極めて激しくなり、保守党内でさえ、彼女がまとめた離脱案に賛成票を投じることは、真のブレグジットに反対していると受け止められるようになった。

繰り返される読み間違い

だが、離脱強硬派が意図せずブレグジットを失敗させつつあるもう1つの、そしておそらく最も際立った理由は、単純な(しかし深刻な)政局の読み違いだ。実のところイギリスの政治は過去3年間、同じような愚かな誤算に振り回されてきた。

デービッド・キャメロン前首相が、国民はEU残留を選ぶに違いないと根拠のない自信を抱いたために、16年の国民投票が実施されることになった。そして17年には、保守党は地滑り的な勝利を収めるに違いないと、メイが奇妙な確信を抱いたために、解散・総選挙が行われた。結果的に保守党は労働党に30以上の議席を奪われ、議会における圧倒的過半数を手放した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中