最新記事

環境

深刻化するバンコクの大気汚染 熱帯の都市にマスク着用は根付くか?

2019年1月16日(水)14時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)

タイで人気のグラフィティーアーティストHeadache Stencilも大気汚染問題を取り上げた Jorge Silva-REUTERS

<大気汚染が悪化しているのは中国や韓国だけではない。タイでは首相自らマスク着用を呼びかけるほど問題になっている>

「微笑みの国」タイの首都バンコクでPM2.5などの微小粒子物質による大気汚染が深刻化しており、政府は航空機による薬剤散布で人工降雨による対策にも乗り出した。市民は外出時にはマスク着用などの自衛策で対応しており、日本からの観光客もマスク持参などの対策が求められている。

1月13日朝、バンコク周辺の19か所で微小粒子物質PM2.5の数値が安全基準値を大きく超えて観測されたと、タイ紙「ネーション」などが大きく報じた。特にナコーンパトム地区やチャトチャック地区では基準値の2倍近い数値となっており、健康への影響が憂慮されている。

自動車の排気ガスや工場などからの粉塵に含まれるPM2.5は粒子が微小のため、吸い込んだ場合肺の奥まで達して呼吸器系や循環器系に健康被害をもたらす懸念が指摘されている。肺がんや喘息を誘発する可能性もあるという。

プラユット首相が陣頭指揮

こうした深刻化するバンコクの大気汚染についてプラユット首相は1月14日にFaceBook上で「政府は天然資源省や環境省が大気問題の解決を検討、模索中である」としたうえで、「バンコク市内の各地区で道路の清掃と散水を行っている。これにより大気中の粉塵を削減することができるからである。特に大気汚染がひどい地区の市民は外出時にはマスクを着用することを薦める」と情報発信した。

バンコクでは乾季のためこのところ大気の乾燥が続き、道路などの粉塵が風で舞い上がることで大気汚染が深刻になっている。こうした事態を受けてプラユット首相の指示に基づき公害防止局は地域の行政組織等に対して「毎日道路上を清掃すること」「道路や路地に散水すること」で少しでも大気汚染を軽減する努力を始めている。

またバンコク保健当局は特に大気汚染の激しい地区では外出時のマスク着用を呼びかけている。

バンコク市内では交通整理に当たる警察官が排気ガス対策で黒いマスクを着用しているのは昔から有名だが、一般市民の間ではマスクは「イラストやアニメで描かれるファッションの一部」としてしか認識されていないのが現状である。

当然ながら保険当局などのマスク着用の呼びかけに対しても反応は鈍く、また市内で一般に市販されているマスクでは細かい粒子のPM2.5は防げないこともあり、バンコクでマスクを着用している市民は10%にも満たないという。

このため米国のN95 あるいは日本のDS1というような微小粒子物質を防ぐことが可能な規格の高品質なマスク着用が求められており、日本からバンコクを訪れる観光客やビジネスマンは日本国内でそうしたマスクを購入、持参して自衛することが望ましい状況となっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

韓国最高裁、李在明氏の無罪判決破棄 大統領選出馬資

ワールド

イスラエルがシリア攻撃、少数派保護理由に 首都近郊

ワールド

学生が米テキサス大学と州知事を提訴、ガザ抗議デモ巡

ワールド

豪住宅価格、4月は過去最高 関税リスクで販売は減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中