最新記事

環境

深刻化するバンコクの大気汚染 熱帯の都市にマスク着用は根付くか?

2019年1月16日(水)14時45分
大塚智彦(PanAsiaNews)


空からの降雨作戦のようすを伝える現地メディア TNN24 / YouTube

航空機による人工降雨作戦開始

一方、1月15日からは農業航空局が航空機で市内上空に塩化ナトリウムなどの薬剤を散布し、人工的に雨を降らせる「人工降雨作戦」を開始した。関係者は「実際に雨が降るかどうかはその時の気象状況にもよる」としているが、2機が飛んだ15日はバンコク中心部など複数の地点で降雨が観測されたという。この降雨作戦は18日まで断続的に実施する予定とされ、その効果に期待が寄せられている。

大気汚染は風の影響などでバンコク南東部のリゾート観光地パタヤでも観測されるなどバンコク首都圏から周辺地区にも拡大しており、効果的な対応が急務となっている。

国際的な環境団体「グリーンピース」のタイ支部は大気の汚染状況を示す「大気質指数(AQI)」でバンコクは世界の都市のワースト10にランクされる状況にある、と指摘。

AQIでは大気の汚染度を6段階(良好・中程度・繊細な人には不健康・不健康・非常に不健康・危険)に区分しているが、最近のバンコクは「誰もが健康への影響を受け始める可能性があり、より繊細な人はさらに深刻な健康被害が予想される」という「不健康」のレベルに分類されており、グリーンピースは政府に早急な対策と市民への警戒を呼びかけている。

タイは現在2月まで続く乾季にあり、その後猛暑の暑気を迎え、4月の中旬以降に待望の雨期を迎える。このため、今後数カ月は大気汚染問題がバンコク市民にとってもプラユット政権にとっても最大のそして緊急の課題となる。

タイはプラユット政権が2月24日に民政移管の総選挙実施を打ち出したが、王室行事との関係で再度延期の可能性が出てきたことから「総選挙延期反対」の市民デモや集会がこのところ頻発するなど社会不安も高まりつつある。

気温35度から37度、ときに40度近くまでなるタイらしい猛暑の暑気を前に、タイは政治的、社会的にも「熱い季節」に突入しており、そこに大気汚染という環境問題が輪をかけて、昼間は息苦しく、夜は寝苦しい日々が続くことになりそうだ。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

ニューズウィーク日本版 英語で学ぶ国際ニュース超入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年5月6日/13日号(4月30日発売)は「英語で学ぶ 国際ニュース超入門」特集。トランプ2.0/関税大戦争/ウクライナ和平/中国・台湾有事/北朝鮮/韓国新大統領……etc.

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

鉱物資源協定、ウクライナは米支援に国富削るとメドベ

ワールド

米、中国に関税交渉を打診 国営メディア報道

ワールド

英4月製造業PMI改定値は45.4、米関税懸念で輸

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中